第二十四章 トンの町 8.ナントの道具屋(その2)
ナントさんの厚意に甘える形で、僕は素材などを見せてもらう事にした。少しでも手札を揃えておかなくちゃ、僕みたいな弱小冒険者はいつまで経ってもこの先に進めないからね。
「弱小」という言葉にナントさんが虚ろな表情を浮かべたけど……何か悪い思い出でもあるのかな? 深く追及しないでおこう。
ナントさんの案内に従って、まず店頭に並べてある品を、次いで店の奥に仕舞い込んである品を鑑定していくが、中々目当てのものは見つからない。……鑑定スキルのレベルだけが上がってしまいそうだ。
「初級で扱う品なんだから、それほど高価なものが対象になるとは考えにくいんだけどねぇ」
「そうですね。薬関係の素材は粗方バランド師匠の店でチェックしましたから、あるとすればそれ以外……錬金術がらみの素材だと思うんですけど」
「師匠って……弟子入りしたのかい?」
「いつの間にか弟子入りクエストになっていて、初級をクリアした事になってたんですよ。邪道スキルが解放されなくて、中級には進めなかったんですけど」
そんな会話をしながら鑑定を続けていると、ある品が目に留まった。皮肉な事に僕が売った品なんだけど……。
「ナントさん、これ……」
「あぁ、ワイルドボアの血だね。シュウイ君が持ち込んだやつだよ……え? これなのかい?」
【素材鑑定】の結果はこうなっている。
【素材アイテム】ワイルドボアの血液 品質B レア度2
ワイルドボアの血液。調薬や錬金術、料理の素材として用いられる。
特殊スキル【分離(特殊)】によって分離した【血小板】から血液製剤が作られる。
「【分離(特殊)】で血小板を分離できるみたいなんですけど……特殊スキルって何ですか?」
「……聞いた事が無いけど……あ、いや……錬金術では、条件を満たせば特殊な加工ができるというのが公式HPの説明に載ってたな。……あぁ、これだ」
ナントさんが見せてくれたウィンドウには、確かにそんな事が書いてあった。
「……つまり、邪道スキルでなくても、何かの条件さえ満たせば普通の錬金術でも扱えるってことですか?」
「調薬でも同じじゃないかと思うけどね。多分それが『(特殊)』っていう表記になってるんだと思うよ」
「邪道スキルでも分離できるんですよね?」
「多分ね。どうする? 持ってくかい?」
「……いえ、ワイルドボアで良いんなら、自分で狩ってみようと思います」
気になるのは……
「血液って料理に使うんですか?」
「あぁ。リアルでも豚の血を固めたソーセージなんかがあるよ。SROではまだお目にかかってないけど、その類じゃないかな」
へぇ~、世の中色んな食べ物があるもんだね。
「用法が表示されなかったものは、【素材鑑定】のレベルが足りてないって事なんでしょうか?」
「もしくは技術レベルか種族レベルだろうね。普通の【鑑定】が失敗するのは自分のレベルが低い場合か、相手が【偽装】などのスキルを持っている場合だから」
成る程……無闇に高レベルの素材を探し回っても、当面の問題を解決する役には立たないのか……。
「シュウイ君の場合だと、レア度の高い素材よりも普通の素材を多く鑑定した方がいいんじゃないかな。素材屋よりも市場の食材なんかが狙い目かもしれないよ?」
「食材ですか?」
「うん。食材として普通に売られている中にも調薬や錬金術の材料になるものもあるし、そういうものは素材屋は扱わないからねぇ」
「成る程……ありがとうございました」
「なに。それよりも、【血小板】とやらが分離できたら教えてくれよ? 普通に売れるかもしれないからね」
「判りました。明日にでもワイルドボア狙いで狩りに行ってみます」
ナントさんにお礼を言って店を出る。まだ日が落ちるまでは時間があるし、市場や露天を廻ってみよう。




