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第百四十八章 ペンチャン村滞在記(七日目) 1.ボルマンの鍛冶場

 ペンチャン村滞在も七日目となるこの日、シュウイは新人二人との朝食と打ち合わせを済ませると、慣れた足取りでボルマンの鍛冶場に向かった。そして――既にそこにも村人たちの手が廻っていた事実を知ったのである。



「……え? ベルズさんが?」

「おぅ。鍛冶場(ここ)での仕事が終わり次第、酒屋の前に来てくれってよ」

「はぁ……」



 〝酒屋〟という単語という単語を聞くに及んで、どうやらこれは【猩々(しょうじょう)】絡みの件らしいと気付く。大方アラベラ婆さんがこの件を(ふい)(ちょう)して廻ったのだろうが、



「あの……あんまりスキルとかの個人情報を触れ回らないでほしいんですけど……」



 今更だろうなと思いつつも一応ボルマンに釘を刺してみると、



「おぅ。村の(もん)もその辺は(わきま)えてっからよ」



 ――という答えが返って来た。この返答が示唆(しさ)するところは二つ。


1.【猩々(しょうじょう)】の件は既に村中に知れ渡っていると考えた方が良い。

2.少なくとも、プレイヤーなど村外の者に対しては、個人情報を秘匿してくれるらしい。


 まぁそれだけでも充分か――と、シュウイは納得する事にする。どうせスキルの件については、普通にしていてもある程度は()(わた)るものだ。レアスキルについては秘匿される事も多いが、それだって必ずという訳ではない。どうやらペンチャン村にとって、【猩々(しょうじょう)】は格別の意味を持っていそうだし、スキルホルダーであるシュウイへの配慮から、村外への秘匿には注意してくれるだろう……シュウイが村に協力する限りにおいては。


 すべてはうっかり【猩々(しょうじょう)】の事を口走った、自分の軽挙の()せる(わざ)――と、シュウイは覚悟を決めるのであった。



・・・・・・・・



 覚悟と諦観の()せる(わざ)か、【錬金術(邪道) 中級】の【精製】スキルを駆使して無心に製錬を続けていたシュウイであるが……作業の途中に突如ウィンドウがポップしては、その無心も破れて驚かざるを得ない。()してやそのウィンドウに記された内容が、


《鉄の精製の経験値が一定以上貯まりました。

 鉱石に含まれる鉄成分から「魔鉄(低)」を生成できます。

 「魔鉄(低)」を生成しますか? Y/N》


 ――などというものであったから、シュウイが困惑して作業を()めたのも、或る意味で()むを得ない事であったろう。



(どうしたもんかなぁ……)



 スキルの事を軽々に触れ廻らないというのは基本であるが、事は依頼された仕事の内容にも関わってくる。となれば、雇い主の意向を確認する必要があろう。村人(NPC)ならプレイヤーのスキル情報を触れ廻ったりしないだろうし……何より、今のシュウイは【猩々(しょうじょう)】スキルを持つ重要人物(VIP)の筈。迂闊な対応はしないだろう――という打算もある。


 そういった諸々(もろもろ)勘案(かんあん)した結果、とりあえずシュウイは現状を――現状のみ(・・)を、()(げん)そうにこちらを見ているボルマンに打ち明けて、指示を仰ぐ事にした。



「あぁ? 魔鉄かよ。……そう言やぁ前にドワーフの旅鍛冶が、そんな事を言ってたっけな。ここの鉄鉱石は他所(よそ)のより少しだけ魔鉄に加工し易いとか。……あぁ、別に魔鉄にする必要は無ぇ。何よりナンの町(むこう)だって困るだろうしな」

「あぁ、成る程」



 シュウイは()く知らないが、「魔鉄」と名が付くからには普通の鉄とは違うだろう。と言う事は、普通の鉄とは使いどころも違ってくる筈だ。

 鉄が来るつもりで作業計画を立てているところに、いきなり魔鉄(低)が届けられればナンの町だって困るだろうし、復旧の(しん)(ちょく)にも影響しかねない。最悪、嫌がらせと受け取られる可能性だって無くはない。これはボルマンの言うのが正しい。


 納得したシュウイはウィンドウの「N」をタップして作業を続けるが、その合間に「魔鉄」について訊く事は忘れなかった。それによると「魔鉄」とは、文字どおり魔力を帯びた鉄の事らしい。

 基本的な属性や使いどころは鉄と変わらないものの、魔力が()み込んでいるせいで魔法的な外力を受けにくいらしい。高品質の魔鉄で作った防具は、並みの魔法攻撃なら軽く()なしてのけるそうだ。(もっと)も、強度は普通の鉄と大差無いので、物理的な衝撃は相応に(とお)るとの事だが。



「まぁ、普通の鉄を何やらして魔鉄に変えるらしいが、ここの鉄鉱石はメタリワーム謹製だからよ。魔力だか魔素だかが馴染(なじ)んでて、ちっとばかり魔鉄にし易いんだとよ」



 ボルマンの説明を聞いて、ふむ――と考え込むシュウイ。


 ここの鉄鉱石がそういう特徴を……魔鉄に加工し易いという特徴を持っているとなると、これは特殊鋼開発を目指しているテムジンとシュウイ(じぶんたち)としても放っては置けない。

 そう考えたシュウイは、鉄鉱石の幾つかを見本として旧知の鍛冶師(テムジン)に譲ってもらえないかとボルマンに申し出たところ、



「あ? 別に構わねぇぜ。特に秘密にしてるもんじゃねぇからな。ただ――『畑』を荒らすような真似はしてくれるなよ?」



 ……と、あっさり許可を得る事ができた。


 果たして「魔鉄」がテムジンの言う「特殊鋼」のカテゴリーに入るのかどうかは判らないが、何らかの参考にはなるだろう。

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