第三章 トンの町 1.PK
日間VRゲームランキングで31位に入っていました。評価ありがとうございます。
シュウイの方は初日のPvPに続いてやらかします。
冒険者ギルドで薬草の採集依頼を受けて、今はトンの町の北側のフィールドに来ている。他のプレイヤーがほとんどいない場所をわざわざ選んだのは、第一に、ここには薬草の大規模な生育地があると聞いた事、そして第二に、敵か味方かはっきりしないプレイヤーがいないという事だ。こんな場所で姿を隠して近づこうなんてのはPKに決まっている。判断に迷う事がないからね♪
……ふぅん。虫の声が聞こえなくなった。このゲームではこういう風に再現するのか。耳を澄ませば虫の鳴き声が聞こえるのは右手の方角、左手の方角からは聞こえない。単純に考えれば、PKが隠れているのは左側、という事になるんだろう。これが陽動という可能性もあるから、右手を安全圏と断定する事はできないけどね。
丈の高い草むらに入り込んで、【地味】スキルを発動して身を隠す。そして次のスキルを発動する。
(【べとべとさん】)
これは最近手に入れたばかりのスキルで、足音と足跡だけを先に進ませるスキルだ。尤も、足音の中には草の揺らぎも含まれているらしく、足跡に従って草も揺れ動いているけど……奇観だなぁ。
そうやってじっと見ていると、足跡の部分に矢が飛んできた。先端が変色していたから、毒矢みたいだな。ここで次のスキルを発動っと♪
(【腹話術】「うわぁっ!」)(【べとべとさん】解除)
しばらく待っていると……
「やったか!?」
「仕留めたぞ」
「生意気なガキも、俺たちにかかっちゃこんなモンよ」
三人か……。【地味】スキルを発動したまま、一番後ろのやつに近づいて……
「!?っ」
喉を潰したまま首の骨を折る。振り返った二人目の喉笛をナイフで切り裂き、三人目は石を包んだ手拭いを振り下ろして脳天を砕く。あっけないね。そのまましばらく待っていたけど、他の人間の気配はしない。三人だけだったみたいだね。
さて、三人の屍体が消えた後には……わはは♪ 所持金と装備品がごっそり残ってる。へぇ~、死に戻りって身一つで戻るのか。僕も注意しないといけないな。
シュウイは勘違いしているが、本来身一つで死に戻るような事はあり得ない。これはシュウイの【解体】スキルと【落とし物】スキルの相乗効果で、ドロップ――この場合は遺品――の量が理不尽に増えたせいである。
電子音が鳴ったのを聞いていたから、ログを調べてみる。【地味】【腹話術】【べとべとさん】【解体】【落とし物】のスキルがそれぞれ上がったようだ。
うん。やっぱりPKや犯罪者は積極的に狩りたいね♪
・・・・・・・・
その頃、プレイヤーが死に戻る礼拝堂では、身ぐるみ剥がれた三人のプレイヤーが悄気返っていた。
「一体全体、何があったんだよ……」
「判らん……確かに仕留めたと思ったんだが……気が付いたら死に戻っていた」
「何に殺られたのかはともかく、何でこんな事になってるんだよ……」
「装備一式、金も無い……」
「おい……俺はスキルまで減ってるぞ。お前たちはどうなんだ?」
「え?……ああっ! 俺もだ! 【虫の知らせ】ってレアスキルが消えてる」
「俺は【嗅覚強化】が……結構レアな筈なのに……」
「俺のはレアスキルではないんだが……【気配察知】が消えた……」
「……コレって、やっぱり、アイツのせいか?」
「判らん。判らんが、俺は金輪際アイツとは関わらんぞ」
「……一応、裏掲示板には流しとくか。あぁ、俺も奴とは関わりたくない」
「俺もだな……」
・・・・・・・・
「お、スキルが増えてる。【虫の知らせ】【嗅覚強化】【気配察知】……あれ? 【気配察知】ってレアスキルだっけ? 僕、最初に取ろうとしてたよね? ……PKを狩ったら、普通のスキルも獲得できるのかぁ……これはますます狙い目だよね」
・・・・・・・・
「……なぁ、何か急に寒気がしてきたんだが」
「俺もだ。背筋に悪寒が走った……」
「右に同じだ。早いとこ逃げだそう」
礼拝堂から三人の男の姿が消えた。
本日も数話ほど更新する予定です。