第百四十六章 ペンチャン村滞在記(六日目) 5.ペンチャン村宿泊所食堂(その2)
ならば新人のもう片方、エンジュの方はどうなのか。
モックとシュウイの視線は自ずとエンジュの方に向いたのだが、
「あ、あたしも大丈夫です」
――というのが彼女の答えであった。
「原石の下拵えが思ってた以上に好調で、スキルもレベルアップしてるんですよね」
「へぇ、そうなんだ」
スキルのレベルアップに伴って、作業中の原石の破損なども減ってきており、更には石の良し悪しなども、研磨前に或る程度判るようになってきたため、ベルズたちからの評判も上々なのだという。なのでエンジュとしても、もう少しこの村に留まって、更なるスキルアップを目指したい……という事のようであった。
三者三様に村への滞在理由ができているという事で、満場一致で滞在延長の方針が決まる。殊にシュウイの場合には、【調薬】や【錬金術】、更には【猩々】や【バーテンダー】を磨く事で、より高品質の喉飴やメンテナンスオイルを作れるというのだ。モックとしても異論のあろう筈が無い。
これで懸案事項は片付いたという事で、その後は他愛も無い世間話に移ったのだが……そこでエンジュが口にしたのが、少しばかり聞き捨てにしにくい話であった。
「原石の傾向が変わってきてる?」
「あ、はい。あたしにはいつ採れた石なのかが判りませんから、はっきりした事は言えないんですけど……」
以前から成長促進と成功率上昇――特に芸術系スキルに関して――に偏った傾向はあったそうだが、最近ではこれに、
「青金石とか紅玉髄、水晶なんかが混じってきてるんです……少しずつですけど」
「それって効果は?」
「青金石と紅玉髄は幸運値にプラスの補正がかかります。青金石は微補正、紅玉髄は中程度補正ですけど」
「……水晶は?」
「こっちは浄化とか解毒です」
追加されたラインナップは、ペンチャン村ではあまり需要が無さそうな気がする。どちらかと言えば……
「それと、下拵えした石のかなりな分が、ナンの町へ運ばれているそうなんです」
「あー……やっぱり」
「そういうオチかぁ」
似たような話は他でも聞いた。具体的には今朝、鍛冶場でボルマンから聞き込んだ。それについてはモックとエンジュにも話してあるが、要するに鉄材の需要が高まっており、その多くがナンの町向けに出荷されているという話だった。
「復興特需ってやつかぁ……」
ナンの町半壊の影響は、思っていたよりあちこちに及んでおり、ここペンチャンの村もその例外ではないようだ。
「変に履き違えたプレイヤーが来て、余計な事をしなきゃいいんですけどねぇ」
「全くだよね」




