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第百四十六章 ペンチャン村滞在記(六日目) 1.ボルマンの鍛冶場

「え? この鉄って、ナンの町に運ばれるんですか?」

「おぅ。鉄材そのままって訳じゃねぇけどな。何せあっこはほれ、あんな事(・・・・)になっちまってるからよ」

「あぁ……はい」



 新人二人を交えての朝食後、ボルマンの鍛冶場に出勤して来たシュウイがそこで聞いたのは、シュウイが精錬に(たずさ)わっている鉄材が、最終的には復興資材としてナンの町に運ばれるという事であった。



「ま、ナンの町じゃ鍛冶場もおシャカになっちまったってんで、トンの町の鍛冶師たちが、総出で金物作りに精を出してるって事だがな」

「あー……そう言えば、そんな話を聞いたような気がします」



 確かトンの町を出る時に、冒険者ギルドでテムジンがそんな依頼を受けていた。その事はシュウイもうっすら憶えていたが、まさかここペンチャン村産の鉄材がそれに使われているとは、その時は予想もしなかった。……いや、言われてみれば納得できる話だし、少し前の(おさな)馴染(なじ)みとの話にも出たんだが。



「そんな訳でな、今やどこでも鉄は引っ張りだこなのよ。ナンの町だけが鉄を欲しがってる訳じゃねぇからな」



 ここペンチャンの村も例外ではなく、領主直々(じきじき)に鉄増産の大号令がかかっているのだという。



「ところがな、鉄を精錬するにゃそれ用の燃料とか溶剤とかが要る訳なんだが、その仕入れ先のナンの町があんな(ざま)になっちまったんでよ、どうしたもんかって頭を抱えてたんだが……」



 そこへ〝飛んで火に入る夏の虫〟(よろ)しくノコノコとやって来たのが、【錬金術】持ちのシュウイであった。そうと判ってからというもの、村を挙げてその来訪を歓迎したのも無理はない。

 とは言えシュウイは異邦人(プレイヤー)。いつ何時この村を出て行くか判らない。ならばシュウイがいるうちに、できるだけ精錬を進めておきたい……



「それで昨日の採掘作業になったんですか」

「おぅ。お蔭で随分と(はか)が行ったわ」



 カラカラと笑うボルマンが言うには、何しろ普段は鉱石の運搬も人力頼りだから、あまり量を運べなかった。ところが昨日はシュウイのアイテムバッグだけでなく【(しゅ)()】のスキルまで動員しての大量運搬である。お蔭で昨日の一日だけで、普段の数倍に達する量を運べたのだという。

 今からその大量の鉱石を、これまたシュウイの【錬金術】に頼って精錬しようというのであった。



「あと二、三回分片付けてくれりゃ大助かりなんだが……ま、無理は言わねぇわ。そのうち王都やシアの町からも差し入れがあるだろうしよ」

「……王都?」



 (いぶか)しげなシュウイの表情を見て、ボルマンが話してくれたところに()ると、王都の商会が編成したナンの町救援の第一陣が、そろそろナンの町に着く頃だという。

 タクマたちでさえまだ掴んでいなかった王都勢の動向を、()くもあっさりと把握するとは……〝(じゃ)の道は(へび)〟というやつか。


 ――と、シュウイが独り感心していると、



「いや、そんな(てえ)したもんじゃねぇよ。昨夜(ゆんべ)ここへ着いた旅芸人の(あん)ちゃんがな、ナンの町の様子を話してくれただけだ」



 ……シュウイ一行の足止めを狙った運営管理室の室長・木檜(こぐれ)が、旅芸人のNPCを動員して、モックの修行を助長しようとした試みについては既に述べた。

 生憎(あいにく)と【(まい)()】というチート(?)スキルの活躍によって、木檜(こぐれ)の企み自体は空振りに終わったが、一旦動員したNPCたちは、それで解散した訳ではない。そのままペンチャン村に向かうよう取り計らったせいで、旅芸人系のNPCたちが、ペンチャンの村に陸続と姿を現す事になっていた。


 面白いのは、これが運営の使()(そう)ばかりに()ったものではない(・・)――という事だろう。


 ナンの町半壊騒ぎを巡って生じたあれこれのドラマは、吟遊詩人(バード)たちの詩心を(いた)く刺戟したらしい。このネタを詩なり歌なりに仕立てて()(ろう)する者が後を絶たず、それを技芸神へ奉納しようと考える者も少なくなかった。そしてそうした者たちが神殿へ向かうに当たっては、当然ペンチャンの村に立ち寄る事となる……


 王都の「救難隊」の情報も、そんな旅芸人の一人がもたらしてくれたものらしい。



「話を戻すとな、鉄の都合を付けようにも、そんための燃料も溶剤も無ぇ……って訴えてやりゃ、多分だがその都合を付けてくれるだろうって事なのよ」



 〝何せ、燃料や溶剤は鉄よか軽いからな〟――と笑うボルマンを見て、シュウイも納得すると同時に、



(鉱石畑の件とか、改めて口止めを頼んでおいた方が良さそうだな……)



 早晩テムジンに連絡を取る事を、改めて心に刻むのであった。


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