第百四十五章 篠ノ目学園高校 1.昼休み~屋上~(その1)
「メタリ○ーム?」
「メタリワーム、な。匠」
蒐一たちがいるのは校舎の屋上、今や昼休み恒例となった昼食会・兼・報告会である。
〝報告会〟と銘打ちながらも、報告するのは専ら自分という現状に、蒐一としても一言もの申したいところはあるのだが、〝前人未踏の場所に滞在している者の報告を優先するのは当たり前〟――と言われてしまえば反論はし辛い。
ペンチャン村に滞在しているのはエンジュも同じだし、エンジュからその姉を介して「ワイルドフラワー」に報告は上がっていないのかとも思ったが、そういうのは押し並べて「リーダー」の仕事らしい。ペンチャン村への滞在は「技芸神への奉納」クエストの一環だし、そのクエストを受けているのはモックなのだが、エンジュとモックの指導役はシュウイなのだからして、パーティのリーダーもシュウイである……というのが新人二人の認識のようだ。
それに……村で何かを引き起こし、もしくは引き当てて来るのは大概シュウイであるというのも、遺憾ながら事実には違いないのだし。
ともあれ、ペンチャン村での出来事は、蒐一によって逐一報告されるのが定式化している。……その報告を聞かされた友人たちが驚き呆れ頭を抱えるところまで含めて。
それでもこの日の報告は、既に蒐一のやらかしに耐性を付けつつあった幼馴染みたちをも驚かせたようだ。
「名前はともかく……ワームが土の中の金属元素を濃縮するのかよ……」
「ねぇねぇ蒐君、それって生物濃縮ってやつ?」
「えーと、どうなのかな……? 要ちゃん」
「……合ってるとも間違ってるとも答えにくいわね。言葉の意味的には、間違ってるとは言えなさそうだけど……生物学で言うところの『生物濃縮』は、代謝されにくい重金属とかが生物の体内に蓄積する事で濃縮されていく事を指すから……」
「メタリワームの場合は、糞として排出してる訳だもんね」
「あー……その点では『生物濃縮』と真反対になんのか」
運営も能くこんなプロセスを思い付いたものだと思うが、
「いえ、スケールは違うけど、似たようなプロセスが無い訳じゃないわよ? 『高師小僧』って、聞いた事無いかしら?」
「高師小僧?」
「あぁ、褐鉄鉱の……そう言えば、似たような仕組みと言えなくもないか……」
――褐鉄鉱または湖沼鉄。
バクテリアの働きによって、湖岸や湿地に生える抽水植物の根の周りに水中の鉄分が集積固着したもので、高師小僧とも言われる。品位は低いが歴とした鉄であり、古代では製鉄の原料に使われる事もあったという。
「厳密に言えば違うんでしょうけど、生物による金属の濃縮という点では同じよね」
「濃縮された金属を、人間が利用してるという点でもね」
「或る意味で共生的な関係を築いてる――って訳か。……待てよ。だとすると、何も知らないプレイヤーがもしワームを討伐したりすると……」
「あ、鍛冶師の小父さんに怒られるの?」
それは大変と言いたげな茜であったが、
「いえ……もう少し根が深そうなのよね」
何やら気遣わしげな表情を浮かべる要の横で、蒐一も我が意を得たりと頷いている。……事情が解っていないのは、匠と茜ばかりである。
「蒐……説明しろ」
「うん。――じゃ、要先生、どうぞ」
「私なの? ……まぁいいけど。……えぇと、蒐君の説明にもあったわよね? 土中に含まれている金属元素か何かのせいで、植物が生育できなかったって。似たような話はリアルにもある……と言うか十中八九、リアルの話を基にして作られた設定だと思うのよ」




