第二十四章 トンの町 4.冒険者ギルド
トンの町の冒険者ギルド。そこのギルドマスター室には、このところ噂の中心に居座っている少年が鎮座していた。ギルドマスターはこの少年を興味深げに見ていたが、どこからどう見ても噂のような事をするとは思えなかった――屈強な冒険者を生きながら解体するような人物には。
軽く頭を振って噂の内容から意識を引き剥がすと、当面の問題に集中する。
「……もう一度聞くが、場所は東門の外の草原をずっと行った先、登り径に差し掛かったあたりの崖下。間違いないな?」
「はい」
シュウイはさっきから同じ質問を繰り返すギルドマスターに疑念を覚えていた。壊れた録音機みたいに同じ事を繰り返して。話に聞く警察の取り調べに似ているようだが、シュウイには自分が訊問を受ける心当たりがない。いい加減に苛ついたシュウイが、ギルドマスターを殴り飛ばしたら指名手配を受けるのかな、などと剣呑な考えを抱き始めた時、不穏な空気を察知したのか、ギルドマスターが慌てたように弁解に走る。
「いや、誤解しないでもらいてぇんだが、お前さんを疑ってる訳じゃねぇ。駆け出しの冒険者がソロで行くところじゃねぇんで気になってたんだが……『大剣』ビッグを片付けたっていう手並みが本当なら、さほど不思議な話でもねぇんだろうな」
ギルマスの弁明を耳にして、ようやく疑念が氷解するシュウイ。
「お疑いなら、狩りに同道して戴いても?」
「いや、それには及ばねぇ。狩りの戦果ってやつを見せてもらって、ついでにちぃとばかりギルドにも回してもらえりゃな」
ギルマスが言いたかった事、言いにくかった事を察して、シュウイは内心で頷く。成る程、駆け出しの冒険者に向かって狩りの獲物を分けてくれとは、ギルドマスターの立場からは言いにくいだろう。恐らくはここ数日の間、密かに噂に上っているであろうレア素材の出所に気付き、その分け前を欲しているとしても。
「……あまり多くのものはありませんが?」
「あぁ、軽くで構わん。……あまり騒ぎになるとお前さんの方もやりにくいだろうしな」
「それが解っていて供出を求めますか?」
「済まんな。ギルドのトップとしちゃあ、美味しい話をそうそう見過ごす訳にもいかんのでな」
「……買い取りカウンターへ?」
「いや、ここでいい。俺でも一通りの目利きはできるんでな」
素材の出所が自分だという事を一応は秘匿してくれるらしいと判断したシュウイが、素直に素材を取り出したのだが……案の定ギルドマスターは頭を抱えた。
「……済まん。騒ぎにならずに買い取れそうなものがあまり無い。……ギルドじゃあ捌ききれない品もあるしな」
結局ギルドに買い取ってもらったのは、レッドタイガーの毛皮、ワイルドベアの胆嚢、スラストボアの牙、そして……
「レッドタイガーの完全骨格なんて、俺も初めて見たぜ……」
「これ、一揃いをギルドで買い上げてもらえるんですか?」
何ならばら売りもしますと言いたげなシュウイに手を振るギルドマスター。
「完全な骨格が揃ってんのに、ばら売りなんて勿体ない真似ができるかよ。ギルドからここの領主に持ち込む。出所は内緒にしとくから安心しな」
既にナントにはかなりのレア素材を押し付けている。厄介なブツをこれ以上押し付けるのも気が引けるし、売買ルートが一つだけというのも問題だ。素材の出所を辿られ易くなるだろう。第一、正真正銘の厄介素材がまだ残っている……ギャンビットグリズリーの五臓六腑という悪趣味な代物が。
シュウイはギルドマスターの要請する物品の売却に応じた。
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「……じゃあ、盗賊の住処みたいな場所で回収したものは、全部貰っちゃっていいんですね?」
「ああ。お前さんが持ってきた物品から見て、あそこは四十年程前に討伐されたエディとダンテってぇ二人組の隠れ家に間違ぇ無ぇだろう。権利関係の処理は全部終わってるし、正直な話、ギルドとしちゃあ蒸し返して欲しくねぇんだよ。黙って回収してもらえりゃあ、こっちとしてもありがてぇ」
回収したものを自分のものにして問題ないとのお墨付きを得たシュウイは、浮き浮きと品物をアイテムバッグに仕舞い込んでいく。
「それじゃあ、戴いておきますね」
「あぁ、もうちょいおとなしめの素材があったら、また持ち込んでくんな」




