第百四十章 ペンチャン村滞在記(四日目) 15.宿泊所自室(その1)
今日一日の収穫――手配犯含む――を携えてペンチャン村に戻ったシュウイは、あれやこれやの雑事を済ませて夕食を終え、今は自室に引き取っていた。
まぁ、村人たちには大層驚かれたが……薬草を採りに森へ向かった筈なのに、気絶した手配犯を引き摺って帰って来たのだから、これは誰であれ驚くだろう。とは言え、事の本人がシュウイであると判ると、その驚きがなぜか得心に変わっていったのが、当のシュウイにとっては不得心であったが。
ともあれ、本日採りたてのワクワクの若葉を軽く湯掻いたものを、熱い視線を向けているシルとマハラに与えた後は――
「寝る前恒例のステータスチェックだよね。あんだけ色々と苦労したんだから、スキルの一つ二つ上がってないと、納得がいかないんだけ……ど?」
シュウイの不服と期待を是としたのか、ステータスには確かに大幅な変化があった。最初に目に入ったのは、種族レベルが12に上がっている事だが、その他にも……
「……レベルが変わったスキルだけ見ても、結構あるなぁ」
手始めに察知・警戒系スキルから見ていくと、
【虫の知らせ】 Lv10+ → Lv11+
【嗅覚強化】 Lv9+ → Lv10
【イカサマ破り】Lv6+ → Lv7+
【魔力察知】 Lv3 → Lv4
【生命探知】 Lv2 → Lv3
【気配察知W】 Lv2 → Lv2+
――と、昼間なので使わなかった【梟の目】を除く全てがレベルアップしている。ここ暫く在宅ワークが続いて、髀肉の嘆を託つていたのが嘘のようだ。ここの森はボーナスステージだったのかと一瞬思ったが、考えてみればモンスターの襲撃を警戒する中で、あれやこれやの素材を探し廻っていたのだ。
就中ネイロの堅果に至っては、地中に埋まっている越冬ものを鵜の目鷹の目の蚤取り眼で探し廻ったのだ。【虫の知らせ】や【イカサマ破り】がレベルアップするのも宜なるかなである。
その後のズートの治療においても、病変部はどこまでの範囲なのか、治癒魔法の効果は正しく及んでいるかを見極めるため、【生命探知】と【魔力察知】を使って目を凝らしていたのだ。これくらいのレベルアップなら、寧ろ当然の範囲なのかもしれぬ。
「手当たり次第に使いまくったせいで、【鑑定EX】も上がってるしなぁ」
【鑑定EX】 Lv6+ → Lv7+
どれが目当ての素材なのかと、目に付く傍から【鑑定】をかけまくった上に、ズートの治療でも、菌糸に冒されている部分はどこまでなのかと目を凝らしていたのだ。こちらもレベルアップするのは道理である。
「【採集の心得W】もレベルアップしてるな。まぁ、あれだけ色々採集したんだもんな。そりゃ、レベルアップもするか」
【採集の心得W】 Lv3 → Lv3+
「で、【木登り】と【平衡感覚】に【ウェイトコントロール】は、枝伝いに移動した時に使ったからだよな。……これに関して言いたい事は他にもあるけど……ま、それは後に廻すか」
【木登り】 Lv3 → Lv3+
【平衡感覚】 Lv2 → Lv3
【ウェイトコントロール】 Lv5+ → Lv6
「そうすると、次は愈々『ズートの木の治療』クエストで使ったスキルになるんだけど……」
【聖魔法 初級】 Lv4+ → Lv5
【樹医の心得】 Lv0 → Lv3
【日用大工】 Lv2+ → Lv3
【成長】 Lv0 → Lv1
【霊水】 Lv4 → Lv4+
【聖水】 Lv1 → Lv2
【メビウスの壁】 Lv3 → Lv3+
【掏摸】 Lv3+ → Lv4
【掘削】 Lv3+ → Lv4
【掘り出し物】 Lv3+ → Lv4
【解体W】 Lv7 → Lv7+
【聴耳頭巾】 Lv5+ → Lv6
「……大体は予想どおりだけど……【成長】かぁ。すっかり忘れてたけど……【暴発】が仕事してくれたのかな?」
ジョブを「遊び人」に変えていたせいなのか。シュウイが発動し忘れていたスキルについても、【暴発】がちゃんとフォローしてくれたようだ。もはや〝暴発〟という名は相応しくないのではないか? 〝尻拭い〟……と言うのは名前が少しアレだとしても、〝フォローアップ〟くらいに変更した方が良いのではないか?
それはともかく――と、シュウイは気持ちを切り替える。
「【霊水】【聖水】【解体W】辺りは狙いどおりだとしても……【掘削】も仕事してくれたんだ。……道具を使った穴掘りはカバーしてくれないって聞いたけど……まぁ、破片を指で掻き出したりもしてたから、そこをカバーしてくれたのかな?」
……だとしても、各スキルのレベルアップが少し早くはないか?
「う~ん……【器用平民】はLv2に上がってるけど……そこまでレベルアップの押し上げ効果があるかなぁ?」
【器用平民】 Lv1 → Lv2
シュウイのこれまでの経験に鑑みれば、押し並べてスキルが〝化ける〟のはLv3からである。幾ら【器用平民】が進化スキルだといっても、これまでの原則を変更するような事があるだろうか? ここの運営がそこまで優しいとは思えない。
だとすると……これはやはり「ズートの木の治療」クエストが原因なのではないか?
「……終いには話も通じるようになったし……これはやっぱり、『ズートの木』は特殊なNPCと考えるべきなんじゃないか?」
NPCとの交流を強く推している運営なら、その治療クエストを特別なものとして扱っていてもおかしくはない。思い返せばホビンたちと知り合った時にも、毛色の変わった魔法スキルを貰ったではないか。いや、それを言うなら泉の精だって怪しい。彼女も一風変わった称号をくれたし。
況して今回のこのクエストは、ズートの木に関わる一種のチェーンクエストだとも見做し得る。別格扱いになっていてもおかしくはない……
・・・・・・・・
――と、シュウイは一人で納得しているが……事実はシュウイの推測の、更に斜め上を行っていた。裁量を下したのは運営ではなく、SROの管理AIだったのである。
ズートの木が特殊なNPCである事と、NPCに対する治療や保護の効果が高く設定されているのは事実であった。現在進行中の「ナンの町の復興」クエストがその好例である。
ただし、嘗て「ズートの芽生えの移植」のチェーンクエストを完遂した者が、又候「ズートの木の治療」クエストを引き当てるなどという事態は、開発も運営も管理AIも想定してはいなかった。つまり今回の治療クエストは、移植クエストから引き続くチェーンクエストなどではない……いや、なかった。
然るに、如何なる悪魔――註.運営視点――の計らいか、シュウイという特級危険人物――再度の註.運営視点――が、またしてもそれを引き当ててしまった……
この瞬間に管理AIは、これを新たなチェーンクエストだと認定してしまったのである。
加護やスキルの後押しを受けて幸運値が跳ね上がっているとは言え、ここまで展開を面白……進展させてくれたキャラクターは他にはいない。況して彼はこれまでにも、ホビンとの交流・ズートの芽生えの移植・傷付いたデスヘッド幼虫の救済など、NPCとの関わりを密にしている人物である。その友好的態度をこのまま――否、これ以上に押し進めるためには、このタイミングを以て飴を与える必要があるのではないか。
そう思案した管理AIが、スキルのレベルアップをそれとなく押し上げる挙に出たのである。上手い事にシュウイはそれに気付いてくれたようだ。これなら今以上にNPCへの友好的関与を期待できるだろう……
本日21時頃、死霊術師シリーズの新作「邂逅の日」の第一話を投稿の予定です。宜しければご笑覧下さい。




