表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
753/896

第百四十章 ペンチャン村滞在記(四日目) 4.木実(きみ)の名は(その2)

 熟々(つらつら)思い返してみれば、これまで素材と鑑定されたものの多くは、〝どのスキルを用いれば何が得られるか〟までが鑑定文に記してあったような気がする。なのにこの「ネイロの堅果」の場合、〝採油には【調薬】か【錬金術】のスキルが必須〟などと書いてあるくせに、具体的にどのスキルをどう使うのかについての記述が全く無い。これはどういう事なのか。



「……中級で使う素材については、そこまで手取り足取りじゃないって事か? あり得ない話じゃないけど……いや、加工に最低必要な量を満たしていないとか?」



 ……どちらの可能性もありそうな気がする。


 事に後者、()(もと)にあるのはたった一個の実に過ぎず、これだけではメンテナンスに必要な量が採れない、ゆえに手順を記す意味が無い――というのはそれなりに説得力がある。

 う~むと考えこんだシュウイであったが、何とはなしに鑑定文を眺めていたところ、今度は別の事が気になりだした。



「この鑑定文……〝【調薬】か【錬金術】のスキルが必要〟になるのって、〝土中で冬を越した実から上質油を採る時〟だけなのか?」



 サラリと流せば気付かないだろうが、態々(わざわざ)段落を変えてあるのが怪しい気がする。あの(・・)運営が好みそうな罠ではないか?


 そして……もしもそうだとすると、〝一冬越していない実から採油するのなら、【調薬】も【錬金術】も必要無い〟のではないか?



「芸能系のプレイヤー向けの素材だとすると……そういうプレイヤーが【調薬】とか【錬金術】を持ってる可能性って、多分だけど低いよなぁ」



 村の(くす)()のアラベラ婆さんにでも訊けば、あっさりと答えてくれそうな気がする。だがその前に、自分で出来る限りの努力はしておくべきだろう。



「さて――そうするとネイロの木の実を探さなくっちゃね。土に埋まっているものと、木に()っているものの両方を」



 シュウイは長い首を振り振り、ネイロの木の実探しに(いそ)しんだ。その甲斐あってか、土中に埋まった「越冬堅果」の方は割と早く見つけられた――と言うか、実を拾った場所の近くに埋まっていた――のだが……



「う~ん……上級品の筈の越冬堅果は見つかるのに、普及品の筈の当年生堅果が見つからないのは、なぜなんだ?」



 何とも理解しがたい自体に首を(かし)げる――その首は長いまま――シュウイであったが、事情はそこまでおかしなものではない。ネイロの堅果を埋めたのはリスやカケスなどの小動物であろうが、その際に母樹から離れた位置に埋めただけの事である。


 少し考えれば解るであろうが、母樹の根元にその実を埋蔵したところで、リスやカケスにもネイロにもメリットは無い。運搬者たる小動物にしてみれば、母樹から離れた位置に別個の貯蔵場所を準備しておく方が、擬似的な餌場が増えるようなもので都合が好い。ネイロの方も、種子を遠くに運んでもらった方が、繁殖や分散の上でも好都合である。

 ……と、いうような生態学の知識を聞きかじった開発陣が、母樹と埋蔵場所を離して設置した訳である。


 (おそ)()きながらもそれに気付いたシュウイは、当ても無くネイロの母樹を探さねばならぬ羽目に陥った。……いや、別に義務でもクエストでもないのだが、ここでスゴスゴと引き下がるようでは、「冒険者」の名が(すた)るではないか。

 ……という心意気は買うが、実際の手懸かりはと言うと、堅果の現物と「ネイロ」という名前だけ。母樹の樹形も木肌も葉の形も判っていないのだ。(ひっ)(きょう)シュウイとしては、実が落ちていないか地面に目を配りつつ。手近な木々を片っ端から【鑑定】していくしか無い訳で、効率の悪い事(おびただ)しい。どうせ今日一日は暇なのだし、腰を据えてノンビリ探すか――と、諦め半分に自分を慰め納得させていたところで、



「うん? 何かあった?」



 ――従魔たちと【虫の知らせ】が反応した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ネイロ……どんぐり?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ