表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
749/895

第百三十九章 篠ノ目学園高校~昼休み~

「何でだよ!? まだ一ヵ月も先だろうが!」

「そうだよカナちゃん! どうして今頃そんな事言うの!?」



 昼休みの屋上で(しゅう)(いち)(かなめ)に喰ってかかっているのは、二人とは(おさな)馴染(なじ)みの(たくみ)(あかね)(いさか)いの原因は何かと言うと、



「あのな(たくみ)、一ヵ月じゃなくて二十日。もう二週間足らずで試験前週間なんだからな?」

「……だとしても二週間あるじゃないかよ」

「そうだそうだ!」

「あら? 違うわよ(あかね)ちゃん。もう二週間しか(・・・・・)無いのよ」

「「う……」」



 さすがに「氷の女王」と「微笑みの悪魔」(もしくは「惨劇の貴公子」)を前にしては、たかがβプレイヤーでは力不足……と自覚してはいるようで、それ以上の反駁(はんばく)の言葉は出なかった。しかし納得はしていないようで、恨めしげな視線を向ける事は忘れない。

 そんな二人に(しゅう)(いち)(わざ)とらしく溜息を()くと、



「あのな(たくみ)、次のテストが期末テストで、それが終わったら夏休み――っていうのは解るよな?」



 当たり前じゃないかという表情を浮かべる二人に、今度は(かなめ)が言って聞かせる。



「夏休みという事はつまり、授業の無い期間が一ヵ月以上続くという事よ? 先生目線で見れば〝自由に使える〟期間、言い換えると――」

「――補習(・・)をするのに打って付けの一ヵ月が、な」



 不服から一転して絶望の表情を浮かべる二人に、「微笑みの悪魔」が追撃を放つ。



「で――夏休みっていうのは、学期末の休みの中でも一番長いんだよな? つまり……」

「補習の時間も長く取れる……という事ね。先生方から見れば」



 魂の抜けたような顔で呆ける二人に、(しゅう)(いち)が留めの一撃を放つ。



「あとな(たくみ)、前にも言ったけど、前回より試験の点数とか成績とかが下がれば、それは全部ゲームのせいにされかねないんだぞ? 赤点とかに関係無く」

「小母様たちからゲーム禁止令が出かねないわね」

「で――その場合、僕らも付き合ってゲームを()めろ……なんて事は言わないよな?」



 ……理路整然と追い詰められた二人には、試験勉強に取りかかる以外の選択肢は残されていなかった。



「とは言っても、SRO(スロウ)ならではの対処法が無い訳じゃないのよね」



 ――なのに、(かなめ)がこんな事を言うものだから、沈没していた二人がガバと跳ね起きる。



「……SRO(スロウ)ならではの対処法?」

「カナちゃん! それってどういうの!?」



 〝SRO(スロウ)ならではの対処法〟という事は、〝ゲームをしながらできる対処法〟という事ではないのか? そんな一石二鳥的対処法があるのなら、是非とも教わりたいものだ。



「あら? 二人は知らなかった? 『PTA』っていうプレイヤーズギルド」

「あー……」

「あれかぁ……」

「『PTA』?」



 初耳らしく()得要(とくよう)(りょう)な顔付きの(しゅう)(いち)に、(かなめ)が丁寧に説明したところでは、



SRO(スロウ)内で家庭教師を請け負うプレイヤーかぁ……」

「えぇ。『PTA』というのは、『プライヴェート・ティーチャーズ・エージェンシー』の略称ね」



 SRO(スロウ)こと「スキルリッチ・ワールド・オンライン」では、サービス接続時間の八時間を、ゲーム内で三倍に加速する事で一日にしている。言い換えると、SRO(スロウ)内では外の三倍の効率で勉強する事ができる……



「――という(うた)い文句を掲げて、家庭教師を請け負ってる訳」

「それって、リアル()マネー()トレード()とかに引っかからないの?」

「本人たちは〝家庭教師のロールプレイ〟だと主張してるわね。実際にも、リアルマネーでの取引はしてないみたいだし」



 そんなロールプレイのどこが面白いのか――と、呆れ半分・不可解半分の表情を浮かべる(しゅう)(いち)の横で、



(「効率三倍かぁ……」)

(「言い換えると、勉強の時間は三分の一で済むんだよね……?」)



 ヒソヒソと(ささや)()わしている二人組。その二人が、



(「……この際、悪くはないかもな」)

(「だよね」)



 ――などと言い出したのを見計らったかのように、



「あれ? でも(かなめ)ちゃん。それって〝SRO(スロウ)外と比較した場合の効率〟であって、SRO(スロウ)内で勉強に費やす主観的時間は同じだよね?」

「そうね。だから〝SRO(スロウ)以外に使う時間を確保したい人〟向けという事になるわね」

「「――――っ!(涙)」」



 なけなしの希望を無惨に打ち砕かれて涙目の二人に向かって、ニッコリと微笑んだ(かなめ)が言う事には、



「あら、ものは考えようよ? 最大の不確定要素である(しゅう)君が最前線にいないんだもの。ゲームが進展するとは思えないし、進展があっても知れたものよ♪」

「「う~…………」」



 独り複雑な表情を浮かべ、それでも敢えて沈黙を守った(しゅう)(いち)を尻目に、



「それじゃあ、今日の放課後から毎日一時間、(しゅう)君と私で試験範囲の復習を見てあげるから」

「「宜しくお願いしま~す」」

今回のリアル編はこれ一話だけで、次回からSRO本編に戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ