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第百三十八章 その頃の彼ら 8.運営管理室(その1)

「邪道が中級に上がった事で、少しは素材の消費に励んでくれるかと思ってたが……」

「そう、こっちの思いどおりにはいかないみたいだな」



 難しい顔付きでモニターの画面を眺めているのは、()(はや)お馴染み運営管理室の面々である。そのモニターの中には、彼らの慢性頭痛の種ことシュウイの姿が映っている。明日は鍛冶場の手伝いが休みという事で、村の外に出て薬草を採集するつもりのようだ。



「当面は回復ポーションの作製がてら、【添加】の習熟を目指すみたいだな」

「いやまぁ、妥当と言えば妥当だし、堅実と言えば堅実なんだが」

「問題は、消費する素材が薬草ぐらいという事だろう」



 (そもそも)の話に遡ってみれば、シュウイに【調薬】と【錬金術】を与えたのは運営管理室である。アレな素材を乱獲して市場に流すシュウイを牽制するために、自分で稀少素材を使わせようとして与えたのだが……何の因果かそれらが邪道に化けたせいで、運営管理室の(もく)論見(ろみ)は敢えなく引っ繰り返される事になった。その原因は幾つかある。


 第一に、正道にせよ邪道にせよシュウイは【調薬】も【錬金術】も初心者であったため、即座に稀少素材を使う段階には至らなかった。まぁ、これについては運営側も、(はな)から承知の上である。

 第二に、邪道を設計した(わた)()――一身上の都合で既に退職――の思想に拠ると、邪道は正道の上位もしくは派生体系であるからして、そうそう簡単にレシピが与えられるようなものではない。レシピは各自が試行錯誤の上で見つけ出すべしという事で、素材にレシピが隠されるようになっていた。つまり、シュウイがそれなりの試行錯誤を繰り返さないとレシピが解放されない、言い換えると作れるもののレパートリーが増えない訳で、初心者にとっては面倒なだけである。(ひっ)(きょう)、シュウイの修行ペースも落ちる事になった。

 第三に、これが最大の問題なのだが、設計者の(わた)()が早々に退職している事から、邪道アーツの設計と仕込みが完了していない可能性が濃厚なのである。これで修行が進む訳が無い。


 それやこれやの結果、シュウイの修行は遅々として進まず、肝心の稀少素材は消費されないまま――というのが、運営にとって不本意な現状なのであった。



「どうする? このままでは事態は改善せんぞ?」

「王都の連中との遭遇が延期になったのは幸いだが……」



 元々、ナントを介してシュウイがもたらす稀少素材が王都に流れた結果、想定よりずっと早い時点で王都のNPCが覚醒しだした。そのせいでロードマップに狂いが出るのを懸念した運営が、シュウイの活動に(せい)(ちゅう)を加えようとしたのが、前述した不本意事態の端緒である。

 生憎(あいにく)な事に、既に王都の主立ったNPCの幾体かは既に活動を開始して、事もあろうにシュウイとの接触を図るに至った。それは今のところ回避されているが、シュウイの()(もと)に稀少素材が余ったままでは、いつ何時(なんどき)事態が悪化するか知れたものではない。



「王国側のNPCが好い働きをしてくれたと思ったんだが……」

「商人側が一枚上手だったよなぁ……」

「いやまぁ、NPCのAIが優秀だと証明されたのは、技術屋として喜ぶべきなんだろうが」



 ――彼らが話している〝王都での裏事情〟について、簡単に説明すると以下のようになる。


 王都の連中(NPC)がシュウイと接触を図るべくナンの町に行こうと画策した事については既に述べたが、誰にとっても想定外だった襲撃イベントが勃発(ぼっぱつ)したせいで、シアの町で足留めを喰わされる羽目になった。その後、ナンの町の現状が判るにつれて、今のままナンの町に出向いてシュウイを訊ね歩くのは悪手と判断。改めて救援の名目で出直すのが吉だろうという事になった。

 シアの町で足留めされていた者たちが、その旨を魔導通信機で王都に連絡。帰り着く前に準備に取りかかったのだが……ここでその動きに待ったを掛けたのが王国であった。

 ナンの町の救援については王国側も座視してはおらず、救援を派遣するかどうか討議している最中である。ここで王国に先んずる形で民間人に動かれては、王国の(メン)()は丸潰れとなる。王国が動くまで待ってほしい……というのがその言い分であった。

 王都に本拠を構える商店商会にしてみれば、ここで王国の意向を一蹴するのは好手ではない。()りとて、いつ終わるとも判らぬお役所仕事を待っていては、既にナンの町に先行している魔術院とハンフリー商会に、好いように出し抜かれるのは(ひつ)(じょう)。その事態だけは回避したい。そこで王都の海千山千勢が出した答というのが、



〝王国の苦衷は理解した。本隊の出発は当分見合わせるが、町の状況を探るための斥候隊を先発させる〟――と回答する事であった。無論その〝斥候隊〟には充分な救援物資を持たせ、先んじてナンの町の好感度を上げておく(はら)である。それと同時に〝王国側も本格的な救難部隊を編成中である〟事も宣伝しておけば、後々面倒な追及をされる事もあるまい。斥候隊の名目が〝被害状況の視察〟であるため、〝謎の腕利き狩人〟の事を積極的に訊き廻る事ができないのは残念だが……


 ――とまぁこういった次第で、王都の商店商会勢がシュウイと接触するという、運営にとって(多分)最悪の事態は、少しだけ延期される事になったのである。

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