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第百三十七章 ペンチャン村滞在記(三日目) 4.宿泊所食堂

 三者三様の仕事を終えて村の宿泊所に舞い戻り、夕食時に食堂で顔を合わせた際、



「……という訳で【鍛冶(基礎)】を拾って、『鍛冶師見習い』のジョブが解放されたんだけどね」



 シュウイは自分の状況を説明していた。無論、思うところあっての事である。



「……先輩の事情に立ち入るつもりはありませんけど……講習を受けてスキルを拾うまでが随分と短いですね」



 呆れたようにコメントするモック。その隣でエンジュもウンウンと(うなず)いている。



「そこは多分、ここに来て拾った【リズム感】っていうスキルのお蔭だと思うんだ」

「「【リズム感】?」」

「うん」



 【リズム感】については抜かり無くチェックして、スキルが解放されてレベルアップしているのを確認してある。【リズム感】がレベルアップしたのは【器用貧乏】改め【器用平民】の効果だろうし、レベルアップした事で【鍛冶(基礎)】の取得がより容易になったという事はあるだろうが、シュウイとしてもそこまで明かすつもりは無かった。

 少なくとも、【鍛冶(基礎)】の取得を後押ししたのは【リズム感】に違い無いだろうし。



「この村でなら二人も拾えるかもね。何かリズムに乗った運動でもしてみたら」



 【リズム感】は特にレアスキルという訳ではないし、ここペンチャン村の事情に(かんが)みれば、二人が取得できる可能性は低くない。リズミカルな運動を反復していれば、拾う事ができるのではないだろうか。



「リズム……反復横跳びでもしてみますか」

「あ、それやるとひょっとしたら、【反復横跳び】ってスキルを拾うかも」

「「【反復横跳び】?」」



 【反復横跳び】は一応レアスキルではあるが、そこまで珍しいスキルではなかった筈だ。二人が拾う可能性だって無くはない。



「名前の割には役に立つスキルだよ? スラストボアの突進をサイドステップで(かわ)す時なんか特に」

「……そんな風に〝役に立つ〟局面に、出遭(であ)いたくはないです……」



 ゲンナリした様子でエンジュがコメントしたのに続いて、モックからも異論が出された。



「と言うかですね、(そもそも)彫金にリズム感って、そこまで必要ですか?」



 何を言い出すのかと向き直った二人に対して、モックは自分の思うところを述べる。



「彫金の動画なんかを観た感じだと、あまりリズムに乗って叩くような事はしてないみたいように思えるんですけど」

「あぁ……言われてみれば」

「だけどさ、入手した素材の(した)(ごしら)えが充分に出来ているかどうかは未知数なんだし、念のために叩いておく事は必要かもじゃん?」



 ――と、一応反論してみたシュウイであったが、そこで肝心な問題に気が付いた。



「て言うかさ、【鍛冶(基礎)】から【彫金】を派生させるのって、どうやるの?」



 それが判っていないと、適切な行動を選べないではないか――というシュウイの指摘に、新人二人は顔を見合わせる。

 エンジュはキャラクタークリエイトの段階で、将来の【彫金】取得を見越して【鍛冶(基礎)】を取っておいたものの、実際に使ってみた事は――その機会が無かった上に、不用意に使って鍛冶師への転職ルートが開く事を避けたかった事もあって――無い。言い換えると、シュウイの問いに答える(すべ)を持たない。



「え? 知らないの?」

「多分ですけど、僕ら以外でも知ってる人はいないか、ごく少ないんじゃないでしょうか。普通の鍛冶師プレイヤーが【彫金】を気にするとは思えませんし、【彫金】が必要になる宝石職人(ジュエラー)は、第二陣で初めて解放されたジョブですし」

「あー……そういう事かぁ」



 偉そうに言ったシュウイにしたところで、彫金スキルの入手ルートなど知ってはいない。試しに【鍛冶(基礎)】のメニューを開いても、製錬とか鍛造とかがあるだけなのだ。ひょっとして【鍛冶(基礎)】のレベルをもう少し上げたら、出て来るのかもしれないが、少なくとも今の時点では参考に出来そうなヒントも見当たらない。



()金っていうくらいだから、彫刻とかのスキルが必要なのかなぁ。木工とかの」

「いえ、【彫金】は【鍛冶】からの派生スキルという事ですから、基本的に鍛冶スキルだけで大丈夫な筈です」

「鍛冶の行動で彫金に(つな)がりそうなものって……何だろう?」



 シュウイの自問に、モックとエンジュの二人も考え込む。(しば)し三人が(だんま)りを決め込んで思案を巡らせたところで、シュウイがその可能性に気が付いた。



「あ……ひょっとして(どう)(ちゅう)かな?」



 (どう)(ちゅう)というのは広島の伝統工芸で、銅板を(つち)で叩いて整形し、表面に「ツチ目」模様を施した後に稲藁で(いぶ)して磨き上げる。鍛冶師の製錬工程よりは、小刻みに叩くような気がしないでもない。鍛冶というより金工の(はん)(ちゅう)に含まれそうな気はするが。



「僕はワイアーアクセを考えていました。伸線(しんせん)造りがそれに当たるのかな、と」

「あ、成る程」

「それもありっちゃありか」

「ただ……伸線(しんせん)造りとかワイアーアクセとかが、『彫金』のカテゴリーに入るのかが、ちょっと……」

「あぁ……」

「確かに」



 これについてはシュウイがテムジンに訊いてみるという話に落ち着き、とりあえずシュウイは銅の()(ざい)をエンジュに渡すのであった。

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