第百三十七章 ペンチャン村滞在記(三日目) 3.ボルマンの鍛冶場(その2)
のっけから身も蓋も無い事を言い出したボルマンに、シュウイは驚きと訝しみの表情を浮かべるが、ボルマンの台詞には続きがあった。
「こいつぁいわゆる『軟鉄』ってやつでな。そのままじゃ軟らか過ぎて使えんのよ。一手間掛けて硬化させる必要があるんでな」
どうやら【錬金術】で【分離】した「鉄」は、そのままでは軟らか過ぎて、利用法が限られるらしい。針金や釘に使うのには向いているが、刃物などには軟らか過ぎて使えない。そこを一手間掛ける事によって、より硬い鋼に変えるのだという。
「まぁ、一手間ったって別に難しいこっちゃねぇ。炭火に当ててやりゃいいこった。ま、ちっとばかし温度を高くしてやる必要はあるけどよ」
鍛冶の材料に使う鉄は、融点の低いものの方が何かと都合が好い。一方でシュウイが【錬金術】で【分離】した鉄は純度の高い、言い換えると炭素含有量が低く融点の高い鉄であった。粘り気はあるが硬さは無いため、そのままでは刃物などを造るには向いていない。そこで、炭素を加えて硬度を高めてやる必要がある。
炭火の熱で加熱してやる事で、自然と浸炭処理がなされるようだが、
「うっかり鞴の風を当てちまうと、元の木阿弥になっちまうのよ」
できた浸炭鉄に風が当たって酸素が供給されると、折角滲み込んだ炭素が燃えて元も子も無くなるので、風向きを微妙に調整してやる必要がある……普通なら。
(ひょっとして……【錬金術(邪道)】の【添加】スキルを使えば、簡単に硬化できるのかな?)
【錬金術】でそのまま【分離】すると、必要な炭素までが除かれてしまうため、【錬金術(邪道)】の【添加】スキルを使って後から炭素を加える。……何やらマッチポンプめいている気がするが、これに関しては是非とも確かめておこうと、心の手帳にメモを取るシュウイ。その間にもボルマンによる解説は続いており、
「風加減とかどれくらい硬くすんのかの見極めとか、それにはちとコツが要るけどな。そいつぁ口で教えようったって、教えられるもんじゃねぇ」
一朝一夕にはできない事なので、今この場で試させるには向かないそうだ。
そう前置きした後で、ボルマンは徐に別のインゴットを取り出した。
「こっちゃあ俺が製錬したやつだ。炭火の熱で製錬したんで、そのままでも刃物や何かに使える。お前さんにゃこっちで遊んでもらう」
そう言ってボルマンが手解きしてくれたのは、いわゆる鍛造の工程であった。
本来の意味での鍛造とは、叩く事で素材内部の空隙を潰すとともに不純物を除去し、炭素元素を外に排出して炭素量の調節を行なう、結晶の方向を整えて強度を高める等の意味合いを持つのだが、
(……【錬金術】で【分離】した「鉄」に、そんな必要があるのかなぁ)
結晶の方向を整えるくらいの効果はあるだろうが、空隙や不純物の除去などは不要な気がしないでもない。まぁ、この辺りはゲーム的な手順という事なのだろう。現にシュウイの目の前では、
「錬金術で作った鉄にゃ混ざり物が無ぇからな。ついつい叩くのを疎かにしがちだが、それじゃあ性の良い鉄はできねぇのよ」
――などと、したり顔でボルマンが解説している。
要はリズミカルに一定の回数叩く事で、鉄の製錬が可能になるという事のようだ。
ボルマンの指示どおりに、鉄のインゴットを叩き始めたシュウイであったが、
「おぉ? 初めてにしちゃ結構上手いじゃねぇか。これなら鍛冶師見習いとしてもやってけるぜ」
「あ、そうなんですか?」
〝お世辞でも嬉しいです〟――と続けようとしたところで、確かに金鎚のリズムが我ながら整っている事に気付く。自分にこんな才能があっただろうか?
内心で首を傾げたシュウイであったが、つい最近に該当しそうなスキルを得ていた事を思い出す。
(……ひょっとして【リズム感】が仕事してるのかな?)
ハンマーをトンカチやるというのも、その作業にリズムが要求されるのなら、【リズム感】の職掌内であるのかもしれない。これは後でステータスをチェックして、当該スキルが解放されているかどうか、また、そのレベルがどうなっているのかを確認すればいいだろう。
ともあれ、そんな感じに無心でインゴットを叩いていると、
「んー……本当に初めてたぁ思えねぇな。今直ぐにでも見習いとしてやってけるぜ」
――というありがたいお言葉とともに、
《鍛冶師ボルマンの初心者向け講習をクリアーしました。【鍛冶(基礎)】のスキルを得ました》
《「鍛冶師見習い」の職が解放されました。見習い職に就きますか? Y/N》
シュウイにとっては福音とも言えるメッセージが届けられたのであった。




