第百三十六章 篠ノ目学園高校 3.放課後~喫茶店「帳と扉」~(その2)
鉱物資源のネタで一頻り盛り上がったところで、話題は次なるネタに移る。
「村の薬師のお婆さんが言ってたけど、ペンチャン村の周辺で採れる薬草にも癖があるんだって」
「素材だけじゃなくってか?」
「うん。素材だけじゃなくて」
「癖――ね。……案外と重要な情報なのかもね」
何やら考え始めた要に、首を傾げた茜が問いかける。
「ねぇねぇ要ちゃん、だけど、トンの町で採れるものには、そんな癖は無かったよね?」
「えぇそうね。ついでに言うと、ナンの町でも途中の宿場町でも、そんな話は聞かなかったわね」
――だとすると、これはペンチャン村の特殊事情なのか?
「運営がペンチャン村に張った罠の一つ……ってか?」
「ペンチャン村だけとは限らないわよ? 主要街道を離れた場所では、素材に癖があるのかもしれないわ。そして――現地の住人からその扱い方を訊かない限り、アイテムの作製や調合に失敗する……という事なのかもね」
「あぁ……ストーリーが進むほど、町から離れた場所に狩り場を移す事が多くなるだろうから……」
「そこで自給自足できない……っていうのは痛いよね」
そういう意味では、シュウイが早々とその事実を訊き出してくれた功績は、掛け値無しに大きいと言える。
「ボッチも偶には役に立つんだな」
「匠……お前なぁ……」
「あ、ホラホラ蒐君、ミートパイが来たよー?」
折好く運ばれて来たキドニーパイに舌鼓を打っているうちに、蒐一の心も安定を取り戻す。胃袋が満たされれば堪忍袋も落ち着くというのは、古今東西変わらない真理のようだ。
(「……と言うか、匠君、口が滑り過ぎよ」)
(「お、おぉ……何かすまん」)
(「これはもう蒐君だけじゃなくて、あたしたちにも何か奢ってくれなきゃだよね♪」)
(「マジかよ……」)
ひそひそ話を交わしている幼馴染みたちを横目で見て、蒐一は徐に最後の爆弾を取り出した。
「今回新しいスキルは拾わなかったんだけど、【調薬(邪道)】と【錬金術(邪道)】が中級(前期)っていうのにクラスアップしたんだよね。……で、新しいスキルが解放されてさぁ……」
「新しい……」
「……スキル?」
〝今回新しいスキルは拾わなかった〟と言った、その舌の根の乾かぬうちに、〝新しいスキルが解放された〟発言である。「スキルコレクター」という蒐一の特殊事情を知っている者としては、警戒したくもなろうではないか。
「うん、幾つかあるんだけど……問題はその一つ、【添加】っていうスキルなんだよね」
「「「【添加】……」」」
「うん、そう」
抜からぬ顔の蒐一の説明を聞いて、幼馴染みたちは頭を抱えたくなった。よもや完成品に成分を付加し、その品質を高める事ができるとは。
「あ……その様子だとやっぱり、あんまりやらない事なんだ?」
「あんまりと言うか……抑、【添加】というスキル自体が初耳なんだけど?」
「え……?」
意表を衝かれたような蒐一の表情を見て、疲れたような表情の要が説明に移る。
……彼女の憮然たる表情の理由を理解してもらうために、ここで簡単に一般の――要するに「邪道」ではない――【調薬】の履修課程について触れておこう。




