第百三十五章 ペンチャン村滞在記(二日目) 12.シュウイ~おやすみなさいのそのまえに~(その2)
「あれ……? 何かあっさりできちゃったな?」
拍子抜けするほど簡単にポーションが出来上がった事に、却って警戒の念を高める。慎重に【鑑定】してみても、出来上がったのは紛う事無き「体力回復ポーション」である。
ただ……ベラ婆さん曰くところの〝癖のある〟薬草を用いたせいか、出来上がったポーションの鑑定結果は、「初級体力回復ポーション[ペンチャンバージョン]」となっていた。尤もこれに関しては、ベラ婆さんから買ったポーションも同じように表示されていたから、特段おかしなものができた訳ではないようだ。
狐に抓まれた思いのシュウイが、用心しぃしぃ再度の作製に挑んだのだが、こちらも支障無く成功する。それはもう、これまで散々失敗してきたのは何だったのかと言いたくなるほど簡単に。
「……え? 何で?」
首を傾げているシュウイであったが……その理由は師・バランドの意地悪……ではなくてスパルタ……でもなくて心尽くしにあった。
端的に言ってしまえば、バランドが融通してくれていた薬草は何れも品質の高い……言い換えると、初心者が扱うには少しハードルの高い素材だったのである。
対して今回使用した薬草は、バランドが渡していたものに較べると少しばかり品質に劣る――とは言っても、初級ポーションの作製に用いる分には問題無い――ものであった。そのせいで作製のハードルもそれ相応に低くなり、初心者であるシュウイにも無事作製できたという訳なのであった。
初級ポーションというのは基本的に、薬草に含まれる薬効成分を抽出して摂取し易くしただけのものであるから、原料となる薬草の品質が効能に、そして作業の難易度に直結する。
上質の薬草で修練を積めば低品質の薬草も問題無く扱えるようになるだろうし、途中で品質と難易度の問題に気付いても、それはそれでシュウイの実になる。両天秤を掛けたようなバランドのスパルタ教育。遅蒔きながらそれに気付いたシュウイは、ブツブツと不満と感謝の言葉――呪詛とも言う――を呟いていたが、その後も作製を重ねて感触を掴み、またバランド印の上級薬草でも作製に成功した事で、漸く踏ん切りが付いたらしい。
徐にバランド印の上級薬草(魔力回復ポーション版)を取り出すと、心を静めて作製に取りかかり、
「――よしっ! 成功!」
喜色を浮かべるシュウイの前には、歴とした「初級魔力回復ポーション」が鎮座在していた。
そして……すっかり気を好くしたシュウイが再度の作製に挑み、何の障りもなくそれに成功したところで……
「……え?」
パンパカパーンとしか言いようの無いラッパの音と共に、空中に文字が浮かび上がる。
《【調薬(邪道)】および【錬金術(邪道)】の初級修了クエストをクリアーしました!》
《【調薬(邪道)】および【錬金術(邪道)】が中級(前期)にクラスアップしました!》
《【調薬(邪道)】および【錬金術(邪道)】の中級(前期)スキルが解放されます!》
「……え???」




