第百三十五章 ペンチャン村滞在記(二日目) 6.村の鍛冶屋~鉄の【分離】~
ボルマンからシュウイへの依頼というのは、言葉にすれば簡単であった。曰く――
「いやな、ここにある鉄鉱石から、鉄だけを取り出してもらえねぇかと思ってな」
「鉄の抽出ですか……」
【錬金術】の【分離】スキルを使えば、母岩から単一の元素を抜き出す事は可能である。それは既に稀少金属の抽出作業で確認している。だが、鍛冶師のスキルでも同じような事ができた筈では?
(確かSROでは……【選鉱】スキルで母岩から粗鉱を選別した後で【製錬】するんだっけ。で、【選鉱】を使った時は、対象にした鉱物以外の残滓は消える……あれ?)
少し前にシュウイが回収した「鉱滓」の中には、プラチナとチタンが含まれていた。もしも【選鉱】スキルを使ったのなら、抑「鉱滓」などは出ないのではないか……?
当惑したシュウイがボルマンにそこのところを訊ねると、
「あー……ちっとばかし誤解があんな」
そう前置きしてボルマンが説明してくれたところでは、ボルマンがやっているのは「選鉱」と言っても、単一の金属だけを一気に抽出するようなものではないらしい。比重とか磁性とかに基づいて、例えば金属とそれ以外という程度に、ごく大雑把に選り分けるのだという。
「魔力量の多い異邦人だと、選鉱もスキルでやったりするみてぇだが、俺たちゃそこまでやんねぇな。そんなところに魔力を使うより、もっと大事なところに使うからよ」
そうして選り分けたものを、今度は熱で融かして「製錬」するらしいのだが……
「まずな、うちの村で使う鉱石は元々品位が高くてな、選鉱の必要はあんまし無ぇのよ」
他所で出土する鉄鉱石とは、少し違っているらしい。鉄の含有量が高い……と言うより、不純物の含有量が少ないのだそうだ。言われてみると確かに、シュウイが以前に見た鉄鉱石とは、外見もかなり違っている。
ともあれそんな訳で、この村では採集した鉱石をいきなり「製錬」するらしいのだが、
「それに使う燃料とか溶剤とかが、当分廻って来そうにねぇんだわ」
これまではナンの町から廻って来ていたのだが、丁度品切れになった頃合いでナンの町が半壊し、入荷の目処が立っていないのだという。困っていたところに、【錬金術】持ちのシュウイが折良くやって来た――という事らしい。
「そういう事ならやってみますけど……僕もまだ駆け出し程度ですからね、上手くいくと保証はできませんよ?」
「おぅ、まぁとにかく試してみてくんねぇ」
・・・・・・・・
金属成分の濃度が高かったせいなのか、鉄を【分離】するのに少し苦労したが、それでも何とか要求に応える事ができた。途中何度か休みを入れて、半分に少し多いくらいの分量の処理を終えたところで、この日の作業は打ち止めである。心無しか【錬金術】の習熟度も上がった気がする。次に鉄を【分離】する時は、もう少し手早く出来そうだ。
「おぉ……こりゃ魂消たな。半分がとこも終わったじゃねぇか」
この村には大型の熔鉱炉など無いので、鉄の製錬も少しずつ進めるしか無く、もっと時間がかかるらしい。燃料と溶剤を消費するのは言わずもがな。
その分だけ魔力を消費するのだが、こっちは回復の手段がある。シュウイは【魔力消費低減 Lv1】のスキルを持っているため消費魔力が少ない事もあって、少し休めば魔力は相応に回復する。とは言え……
(あー……魔力回復のポーション、作っておいた方がいいかなぁ……)
シュウイは既に師・バランドから、初級回復薬の作り方は教わっている。同時にそのタイミングで、それとは異なる【調薬(邪道)】流の作製法も解放されている。
なので一応、魔力回復のポーションも作る事はできるのだが、
(……まだ成功率が低いんだよなぁ。師匠は〝コツさえ掴めば簡単にできる〟――って言ってたけど……)
その〝コツを掴む〟のが実に面倒という事情もあって、シュウイはそこまで熱心に作製に取り組んではこなかった……今までは。
しかし、この後も鉄の【分離】を続けるのなら、魔力回復薬作製の技倆は上げておいた方が良い、否、是が非でも上げておくべきだろう。
(……ボルマン親方、追加で鉄鉱石を掘りに行くような事を呟いてたからなぁ……)
高品位のチタンとプラチナを含むような鉱石の産出ポイントは、これは是非とも押さえておきたい。その点で言えば、追加採掘に向かうのは喜ばしい事なのだが、それは取りも直さず【分離】の作業が続くという事であり、魔力を消耗するという事でもある。
(……そう考えると、やっぱり回復ポーションは作っておいた方がいいか)
幸い、手持ちの素材でも幾許かのポーションは作れなくも無い……失敗さえしなければ。だがまぁ、仮に失敗したところで、追加の素材を採集する事は――この村の近くでも――難しくはない筈だ。
(……いや、ひょっとしたら村にも売ってるんじゃないか?)
――これについては後で確かめておこうと心に決める。
そしてそれとは別に、シュウイにはやっておかねばならない事があった。
「あの……この、鉄を分離した残りですけど……」
「あぁ、悪いが裏手にうっちゃっといてくれるか。溜まったらまた捨てに行ってくれ」
「あ、要らないんなら少し貰ってもいいですか?」
「ん? そりゃ構わねぇが……こんな残り滓、どうしようってんだ?」
「いえ、錬金術師としても駆け出しなんで、何かの素材になりそうなものは、一応とっておく事にしてるんです」
「あぁ……そういう事かよ。構わねぇから幾らでも持ってってくれ」
(よしっ! 言質戴きましたっ!)




