第百三十五章 ペンチャン村滞在記(二日目) 3.村の鍛冶屋~鉱滓始末 或いは リサイクルの陰謀~
鉱滓の山を睨んだまま動かなくなったシュウイを見て、何かあったと気付いたのだろう。恐る恐るといった様子でエンジュが問いかける。
「あの……何か?」
「あ、うん。この鉱滓って、文字どおり宝の山だよ。チタンとプラチナが含まれてる」
「プラチナ!?」
鉄の融点が1538℃なのに対して、チタンの融点は1668℃、プラチナに至っては1768.3℃である。鉄の製錬時にも融けないため、邪魔なゴミとして扱われたらしい。
「含有量はそこまで多くないけどね。けど、その他にも幾つかレアメタルが含まれてるし」
「だ、だったらこれって……」
――産業廃棄物の筈の鉱滓が、重要資源の山に変わった瞬間であった。
「い、いいんでしょうか? 黙って貰っちゃったりして」
「管理責任者の筈のボルマンさんからOK貰ったんだから、何も問題無いと思うよ。このゲーム、NPCの発言は運営の意を酌んだものと見做されるそうだし」
「そ、そうですよね」
プラチナと言えば彫金の材料であり、それは即ちエンジュにとっても有用な素材という事だ。なのでエンジュの目の色も変わっている。
「あ、一応テムジンさんにも連絡してみないと。プラチナはともかく、チタンとレアメタルの情報は知りたいだろうし」
「あ、そ、そうですよね」
――という事で、その場でテムジンに連絡を取ったのだが、
『――チタン!? それにプラチナも!?』
「あ、はい。含有量はそこまで多くありませんけど、それでも製錬済みの鉱滓なんで」
『……我々には不要な「鉄」が取り除いてある分だけ、含有率も上がっているという事か』
「そうなります。不要品という言質を取ってありますから、僕らが貰っても問題無いですよね?」
テムジンはβテスターであるから、この手の事情にも詳しいだろう。そう思って確認したところ、問題無いという答が返って来る。
『とは言え、入手の方法が問題だな』
抑この「ペンチャンの村」自体、奉納クエストを受けていないプレイヤーが辿り着けるかどうか疑問である。その上で、鍛冶師の許を訪れて鉱滓を入手しようとすると……
「あ、でも、鉱滓の現物があるという事は、その元になった鉱石がどこかで採れるという事ですから、機会があったら訊ねてみます」
『あぁ、しかし……そうだな。現状が我々にとって望ましい以上、その状況を変えるような事は望ましくない。……不用意に質問しない方が良いかもしれんな』
「成る程……」
何しろ、貴重な資源であるプラチナとチタンを、ほとんど無償で手に入れられるというのだ。黙っている事に多少の罪悪感は感じるものの、
「実際に抽出できるまでは、この事を教える必要はありませんよね?」
『糠喜びさせては気の毒だからな』
――という意見にも説得力があった。
いや、それ以前に、プラチナやチタンを製錬なりして抽出し加工する技術を持たないのなら、それは〝猫に小判〟も同じである。
「これって立派なエコですよね♪」
『無論、リサイクルは現代のトレンドだとも♪』
――人の悪い笑い声を上げる二人であった。




