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第百三十五章 ペンチャン村滞在記(二日目) 1.私ゃ音楽家~モック離脱~

 ペンチャンの村で迎えた二回目の朝、(あさ)()の席に着いていたシュウイたちの(もと)に、世話役らしい村人が一人の男を伴ってやって来た。伴われた男の()(なり)から察するに――



「あぁ、こん人は昨夜村に着いた旅楽士でな、あんたらに話があるそうだ」



 旅の楽士という男の話とは、内心でシュウイたちが期待していたとおり、モックの指導を引き受けるというものであったから、シュウイたちが()(おど)りしたのは無論である。何しろシュウイたちがこの村に来たのも、モックが受けた奉納クエストと、それに絡んでの演奏修行のためというのが大きい。楽器の稽古を付けてもらえるというなら万々歳ではないか。


 ――ただ、この話には少し(ひね)った裏事情があった。


 運営管理室の暗躍によって、旅芸人のNPCがペンチャン村を目指している経緯(いきさつ)については既に述べたが、昨夜この村に着いたという旅楽士の男もその一人であった。ここまではいい。

 そこから先の展開が(いささ)かおかしくなりだしたのは、村人たちの思惑(おもわく)がこれに絡んできたためである。


 繰り返すがペンチャンの村人たちは、技芸神への奉納のために神殿に向かう者の為人(ひととなり)を見極めるという、密かな使命を帯びている。ゆえに、村を訪れたシュウイたちの人物評定もその任務のうちであったのだが……ひょんな巡り合わせから、その任務に失敗し続けているのが現状であった。


 そんな時に、モックの指導という任務を帯びた旅楽士が、ペンチャンの村にやって来たのを知って、村人たちは考えたのである。



〝楽器の稽古を付けがてら、坊主の為人(ひととなり)を見極めろ?〟

〝あぁ。それを(もっ)て滞在の対価とさせてもらいたい〟

〝まぁ、そりゃ構わねぇが……〟



 男も芸人生活はそれなりに長いので、ペンチャンの村が受け持つ役目については心得ていた。

 どうせ指導をしているうちに、モックの気質などは解ってくる。それを人に伝えるだけで滞在費を負けてくれるというなら、これは悪い話ではない。ただ……



(……芸能ギルドからの情報に拠ると、技芸神様が直々にその坊主を呼んだって事だったが……まぁ、余計な口出しをする事も無ぇか……)



 巡礼者の為人(ひととなり)を見極めるのは(ひっ)(きょう)、技芸神の神殿を訪れる資格があるかどうかを判断するためである。当の技芸神が招いたというなら、資格審査も何も必要無い筈なのだが……皮肉な事にペンチャンの村人は、その情報を知ってはいなかった。と言うか、(そもそも)そういう通達ルートなど、最初から設定されていない。


 要するにペンチャンの村人たちは無駄骨を折る事になるのだが……運営管理室はこれについて、何の指示も出さなかった。

 管理室の側にしてみれば、ここで余計な知恵を授けたら、シュウイたちがさっさと出て行きかねない。それは管理スタッフの望む事ではない。

 ゆえにペンチャンの村人たちは、本来なら必要ない筈の人物評定に邁進(まいしん)する羽目になっていた。


 そして、ここで村人たちは気付いてしまう。


 モックが指導を受けるのと同様に、残る二人にも何かの手伝い仕事を振ってやって、指導役に彼らの為人(ひととなり)を見極めてもらえばいいのではないか?



「……つぅ事で、あんたらには鍛冶場の手伝いをしてほしいんだわ」


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