第二章 篠ノ目学園高校(土曜日) 2.放課後
リアルサイドの話です。本日の更新はここまでです。
一日の授業が終わって後は帰るだけという時になって、匠と茜ちゃんが声をかけてきた。
「蒐、ちょっといいか?」
「うん、何?」
「いやな、茜とも相談したんだけど、お前、当分はトンの町にいるんだろ?」
「いるというか、現状あそこから出られないよね」
「だったら、俺たちが知ってる情報を、今のうちに教えとこうかと思ってな」
「私たちもそろそろ次の町に行く頃合いだし」
あ~、そうか。二人はβテストプレイヤーだったっけ。それぞれパーティを組んでいるみたいだし、僕に付き合わせる訳にはいかないよね。
「それはありがたいけど……いいの?」
「ああ。詳しいのはいずれ纏めたやつをメールか何かで送るとして、大まかなところだけでも話しておこうかと思ってな」
「よければ何人かに紹介もできるけど?」
「う~ん……紹介はいいや。現状はどっちに進むか判らないし、必要になった時に甘えたいんだけど……駄目?」
「蒐がそれでいいんなら、俺たちは構わないぞ」
「うん」
「じゃあ、その時になったらお願いするよ」
「OK。じゃ、トンの町の中からだな」
匠と茜ちゃんのレクチャーによって、トンの町の住人と生産者や商人のプレイヤーたちについて、色々と知る事ができた。
ギルドで受けた依頼で採ったものはギルドに提出すべきだが、依頼外の採集品や獲物については素材屋や商店に直に売っても構わないそうだ。
「けど、プレイヤーが相手だと足もとを見てくるやつもいるしな。ギルドに売るのが無難と言えば無難だな」
「新鮮な食材なんかは商人に売った方が良いよ。大抵は高く買ってくれるし」
「住人の商人なら、そう買い叩く事は無いしな」
「薬草なんかは丁寧に採集すると、通常より高く買ってくれるよ。これはスキルの有無に関係しないし」
「根っこもつけて採るようにな」
薬草や鉱石なんかは、売るタイミングも問題になるそうだ。
「薬草はポーションの、鉱石は武器や防具の素材だから、プレイヤーが減ると需要も減る訳だ。今はまだプレイヤーもトンの町にいるけど、ナンの町に出て行くプレイヤーが多くなると、トンの町ではあまり高く売れなくなるぞ」
「そういう場合、どうすれば……」
「鉱石なんかは劣化するもんじゃないから、そのまま持ってればいいけど……」
「薬草なんかは乾燥させれば日持ちがするよ。錬金術か調薬のスキルがあれば、自分でポーションを作れるけど……」
「最初の予定では調薬を取るつもりだったんだよ……」
町の外に出るモンスターや動物についても、基本的な事を教わった。
「町の西側は比較的開けてるから、危険なモンスターは出ない。まぁ、初心者向けのフィールドだな。その反面で、高めの素材は手に入らない」
「西の次に行くのは南かな。モンスターのレベルは少し高め。素材の買い取り価格もちょっと高めかな」
「北と東はほとんど人手が入ってない環境だし、結構危険だな」
最後に注意されたのはPK、つまりプレイヤーキラーについてだった。
「蒐は昨日目立ったからな。PKの連中にとっちゃ美味しい獲物って訳だ」
「好きで目立ったんじゃないやい」
「このゲーム、町の中ではPK活動はできないの。だから町にいる限り安全。周りに他のプレイヤーが多い場所も比較的安全ね」
「採集依頼を受けて、外に出た時が危ないな」
二人からは注意の他に良い事も聞いた。
「PKや盗賊は犯罪者だからな。殺してもレッドネーム化はしないし、所持品もドロップしたやつは貰える事になってる。場合によっちゃ懸賞金も手に入るな」
「殺しても死に戻るんじゃないの?」
「プレイヤーはな。けど住人の盗賊や殺し屋は、仕留めた後にカードを残すんだ。それを持ってギルドに行けば、懸賞金を支払ってくれるぞ」
へぇ……良い事を聞いた。これは積極的に狙っていくべきかな。「解体」スキルも育てる事ができるかもしれないね。
明日も数話まとめて更新します。