第百三十二章 ペンチャン村滞在記(一日目) 2.村人からの依頼~資格審査クエストの蹉跌~(その2)
その理由とは――〝村の者が能く用いる素材は、品質的には他の土地のものと差異は無いのだが、加工に際してちょっとした癖がある。だが、村の者はその癖に馴染んでいるため、他所で採れた素材は却って使いにくく、喜ばれない〟――というものであった。
そしてこの〝村の者たちが馴染んでいる素材〟は、村の近くでは得られず、少し遠くへ足を伸ばす必要があった。一言で云えば面倒臭い訳である。その面倒を嫌って、金銭や手持ちの素材で賄おうとすれば、村人たちが希望する素材は――市場に流通していないので――得られない、つまり村人の好感度が下がるという訳である。
運営の嫌らしいところは、この素材を〝品質的には他の土地のものと差異が無い〟と設定したところにある。差異が無いため、普通の【鑑定】スキルでは違いが表示されず、【素材鑑定】のスキルを用いても〝若干癖があるが、品質的には問題無い〟と表示されるようになっていた。
言うまでも無く、その素材の「癖」については村人側から何の説明もされないため、好感度評価の基準がプレイヤー側には判らない、よって改善のフィードバックが為されないように仕組まれていた。
この運営側が仕掛けた「罠」が、とある事情から一転して、仕掛けた筈の運営側を襲う事になるのだが……それはもう少し先の話になる。
ちなみに、件の素材が村の近くで得られない理由は、村人たちが長年に亘って乱獲したため――という、これも尤もらしい理由が設定されていた。プレイヤーはモンスターからドロップさせているが、村人は普通に採集していたという事らしい。
そこで話をシュウイたちに戻すと……問題のシュウイが提供したのは、まさにその〝村から少し離れた位置で採れる現地素材〟であった。物納ではあるが、要求は充分に満たしている。故に村人側――と運営側――としても、評価と反応に困る事になった。間抜けな話に思われそうだが、プレイヤーが村を訪れる途中でモンスターを狩るという事態を想定していなかった訳である。
――尤も、これには運営サイドなりの言い分もあった。
ペンチャンの村を訪れるプレイヤーは、基本的に「技芸神への奉納」クエストへの挑戦者であり、言い換えれば芸能系のプレイヤーである。故に、村を前にしてモンスターを狩る事に積極的にはならないだろう――という読みである。
これはこれで筋の通った予想であった。ただ、村人へのお土産などという気配りを考えるプレイヤーの事を、一応は社会人の筈の運営の側が想定していなかっただけだ。
何しろシュウイが提出した素材は、飽くまで村へやって来る途中で入手したものであり、〝態々足労をかける〟という条件を満たしてはいない。しかし、品質は充分以上であり、何より村人の要求を満たしている。
ペンチャンの村の村人たちには、〝自分たちは訪問者に神殿に詣でる資格があるかどうかを判断するのが役目〟という自覚があるだけに、シュウイの申し出は、村としてはありがたい反面で資格審査者としては対応に困る――という二律背反した状況になっていた。
(「おぃ……どうすんだ?」)
(「こういった場合の事は、神官様からも聞かされてないからなぁ……」)
――などと、その場で額を集めて密談する羽目になっていた。
これを見たシュウイが、〝提出した素材だけでは足りないのか〟などと誤解したせいで、話は更に予想外の方向へ転がって行く。あろう事か当のシュウイが、
「あの……それはどっちみち滞在費に充てるつもりでしたから、他に依頼があれば引き受けますけど」
――などと言い出したものだから、村人たちの困惑も輪に輪を掛けて深まる事になった。
シュウイとしては村から追い出されないようにと、懸命のお役立ちアピールをしているだけなのだが。
結果として村人たちが下した判断は、
(「……どのみちこのままじゃ、人物評価は定まらないんだ。折角の申し出なんだから、依頼を受けてくれるというなら頼もうじゃないか」)
(「……そうだな。幸か不幸か、細々とした仕事なら幾つかあるし」)
――という具合に、問題を先送りする事に決めた。済し崩しに滞在延長が決まった訳で、運営側としては――途中の展開は予想外であったものの――一応望ましい形になったとも言える。




