第二十二章 トンの町 5.ナントの道具屋(その2)
「相談?」
「どういう事だい?」
僕は攻撃力の不足に悩んでいる事を説明した。
「成る程ねぇ……幻獣のレベリングかぁ……」
「ええ、戦闘ログを見たんですが、北のフィールドに出る程度のモンスターじゃ、もうシルのレベリング相手として物足りないんです。けど東のフィールドだと、僕の攻撃力が不足しそうなんです」
「そういう事なら付き合うぜ?」
「いえ、ありがたいんですけど、毎回ご迷惑をおかけする訳にもいきませんし、僕自身の攻撃力を上げない限り問題は解決しません。けど、ご承知の通り、僕には攻撃スキルがほとんど無くて……」
「さっきのPvPを見た限りじゃ、攻撃力不足には思えないんだけど……」
「杖と暗器でギャンビットグリズリーと渡り合えと?」
「ああ、いや、そうか」
「けど、シュウよ、店に売ってるスキルオーブは使えねぇんだろ?」
「ええ。だから武器を売ってもらおうかと。モーニングスターとかありませんか?」
「何でまた、近接打撃武器?」
「刃物だとこの先通じない相手が出てきそうで。けど鈍器なら、硬い相手にも衝撃は伝わるんじゃないかと思って」
「あ~、成る程」
「確かにこの先、剣が通じねぇ硬いモンスターが出てくるよな」
「けど、僕としてはモーニングスターの類は売りたくないなぁ」
「え? なぜですか?」
「簡単だ、シュウ。間合いが近すぎる」
「そう。モーニングスターは近接打撃戦用の武器だ。甲冑と盾で武装していないと危険すぎる」
「お勧めできないわね」
「長柄のものもあるけど……これは重くて長くて、取り回しが面倒だしねぇ」
あぁ、予想はしてたけど、やっぱりか。
「じゃぁ、投石紐ってありますか?」
「あ~、投石紐かぁ……けど、あれは……いや、その前に、何で投石紐を使おうなんて気に?」
「……何を言いかけたのか気になりますが……【飛礫】ってスキルを拾ったんですよ」
「【飛礫】? 聞いた事のないスキルだな」
「石に特化した投擲スキルらしいです。何でこんな特化スキルがあるんだろうと考えていたら……」
「あぁ、それで投石紐を連想したのか……」
「さっきヨハネが言いかけた事だけどね、結論から言うとβテストで投石紐は役に立たなかったのよ。狙いが安定しなくてね。【投擲】スキルを使っても駄目だったから、使えないって事になったの」
「けど、誰も【飛礫】ってスキルは持ってなかったしな。案外シュウの言う通りじゃねぇかって気がしてる」
「【投擲】との重ね掛けも気になりますしね……試してみたいです」
「けど、そういうわけだから投石紐は店に置いてないんだ」
「あぁ、それなら簡単そうだから自分で作ってみます」
「……シュウ、お前、【投擲】スキル持ってんのか?」
「あ、はい。レアスキルじゃないのは解ってますが、ボーラを投げていたらなぜか拾っていました」
「あ、ボーラ……」
「おうっ! そいつを忘れるとこだったぜ」
うん? ボーラがどうしたんだろう?
「ナントから連絡を受けて、我々も自作してみたんだが……」
「なぜかまっすぐ飛ばないのよね。まぁ、それでも当たるには当たるんだけど……」
「で、折角だからちょいとシュウに見てもらおうと思ってな」
何もおかしいところはないように思えるけどなぁ……
「ちょっと解いてみても良いですか?」
これがこうなって……こうで……
「ね、ねぇ、シュウイ君、なぜ紐の長さが違うの?」
「え? あれ? 元通りにしたつもりなのに?」
「……ちょっと待て……やっぱり、これ、錘の重さが違ってるぜ」
「何?」
「あ~、それで真っ直ぐ飛ばないのか~」
「じゃあ、シュウイ少年は無自覚に縄の長さを調整していたのか?」
「あ……そういえば、僕、【日曜大工】ってスキルを持ってました」
「便利なやつだな……」
「つまり、シュウイ君が作る時にはそのスキルが働いて、錘の重さの違いを縄の長さで調整してるわけね?」
「多分、そういう事ではないかと思うが……」
「……って事は、まともなボーラはシュウにしか作れねぇって事か?」
「ギルドが採用するには、ボーラの規格が揃っている必要がある。先は長そうだな、ナント」
実際に錘の重さの違いを縄の長さで調整できるかどうかは疑わしいですが、SROではそういう仕様になっています。




