第百三十章 ペンチャンの村へ 7.村を前にして(その2)
「や――最悪だけど、村に泊めてもらえずに門前払いの可能性もあるかと思って」
「「門前払い!?」」
「うん。ゲームだと、どこかに入るのにアイテムを見せないと入れない――って展開があるじゃん?」
「あ……」
「確かに定番の展開ですけど……村の場合はどうなんでしょうか?」
「でもさぁ、SROの運営だよ?」
「「あぁ、確かに」」
ここの運営が悪辣なのは確かだが、しかしそこまで理不尽な真似を?――と訝る二人に向かって、シュウイは改めて自分の懸念を口に出す。
「ほら、僕らって【迷子】でいきなりここに飛ばされたじゃん? そのせいで、本来なら用意されてたキーアイテムの入手機会を、すっ飛ばしたかもしれないんだよね」
「「あぁ――」」
確かに、その可能性は無いとは言えない。
しかし――そうするとどうするのか?
「元来た道を戻るんですか?」
「けど……下手に戻ると面倒に巻き込まれるんですよね?」
抑その可能性が出て来た事で、自分たちはナンの町を離れたのだ。ここで戻れば元の木阿弥。はてさてこれはどうしたものか。
う~んと呻吟していたところで、エンジュが何かに気付いたようだ。
「あ……私たちが飛ばされた場所って、山径でしたよね? あれを逆方向に進んだらどうなんでしょう?」
「あ、そっか……」
「あの時は――少しでもトンの町から離れる方向……それも、広い道に出そうな方向に進んだ訳ですけど……」
思い返してみればあの山径は、山間を縫って伸びていたような気がする。だったら、あの山径を反対方向に進んでも、必ずしもトンの町に出るとは限らないのではないか?
と言うか、街道に出そうな方向を避けて進んで行けば……
「……上手くすると、ナンの町の外れの山に出られるかもしれないね」
「そこって、最初に目指そうとしていた場所ですよね?」
「うん。僕の都合になるけどね」
ナンの町の外れの山に逼塞するという、この国の使役術師の最高峰・バーバラ刀自。その彼女に会うというのが、シュウイの当初の目的であったのである。
その予定は【迷子】の働きであっさりと覆される事になったのだが、
(……ここがトンの町外れっていうんなら、ナンの町に行く手前で、イーファンの宿場外れに出るのが先になるんじゃないかな)
イーファン郊外の山の中には、やはり先達の使役術師であるウィルマとネイサンが住んでいるという。二人ともバーバラ刀自の弟子である上に、「ワイルドフラワー」の面々とも旧知の間柄であるそうだから、会って話を聞くのもよさそうだ。
「ワイルドフラワー」からの情報に拠れば、使役獣を得ていないとイベントが進まないとの事であったが、シュウイは既に使役獣持ち。クエストが進む可能性は低くない。
「尤もその場合だと、モックのクエストが棚上げになっちゃうんだけど……」
「あ、それは気にしなくてもいいです。どうせチャランゴも鈴も、まだ演奏に自信がありませんし」
少しでも練習の時間が取れるのなら、そっちの方がありがたいとモックは言う。
確かにそれも一面の事実であろう。
「まぁ、今回は下見という事でいいんじゃないでしょうか」
「確かに……正規のルートで来てないっていうのも事実だしね」
――何しろ原動力となったのが、【迷子】によるランダム転移である。それに【方向音痴】までタッグを組んでいるようだから、想定外のルートなのは間違い無い。
「まぁ、とりあえず手土産品を探しながら、村へ向かうとしようか」
「村までは半日かからないって言ってましたから、時間は充分ありますよね」




