第百三十章 ペンチャンの村へ 6.村を前にして(その1)
さて――そのシュウイたち一行であるが、運営側の苦慮と迷走を他所に彼らが何をしていたかというと……順調に行程を遅らせていた。
その切っ掛けとなったのはシュウイの発言である。
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「……思うんだけどさぁ、僕らって自分勝手に村にお邪魔する訳じゃない? 何か手土産が要るんじゃないかな?」
「あぁ、確かに……」
「そう言われればそうですね」
厚かましくも初対面の場所にお邪魔しようというのである。手土産の一つくらい持参するのが当然であろう。況してSROは住民との交流を謳っているのだ。心配りはマナーの基本である。
「……滞在費とか渡すべきなんでしょうか?」
「ん~……相場が判んないし、ここがトンの町から離れてるとしたら、貨幣経済がそこまで浸透してるかな?」
「あぁ、それはありますよね」
「だったらアイテム……ドロップ品とかですか?」
「そう考えてて気付いたんだけどさぁ……僕が持ってるドロップ品って、プレイヤー向けの素材ばかりなんだよね。これって村人向けなのかな?」
「あー……」
「どうなんでしょう?」
三人揃ってトンの町の市場――住民向けの生活必需品を売っている場所――の様子を思い浮かべるが……
「……素材って、意外と売ってませんでしたよね」
「食糧とか日用雑貨が中心で……」
「つまり、素材じゃ手土産にならない可能性が高い――って事だよね?」
――ここに至って新人二人も、シュウイの言わんとする事が理解できた。
「村へ行く前に、手土産となるものを確保しようと言うんですね? 先輩は」
「モンスターを狩るんですか?」
「それか、山菜とか薬草とかだね。カナちゃんたちがナンの町の手前で、薬草を採集したって言ってたし。……確か二人とも、採集系のスキルをもってたよね?」
「はい、【採集の心得】を持ってます」
「あたしは一応【採掘】を持ってますけど……ここらに原石とかってあるんでしょうか?」
「宝石の原石じゃなくても、鉄鉱石とか見つかるかもじゃん? ……あ、エンジュの【採掘】は宝石に特化してるんだっけ」
採掘・採集系のスキルで特定のものばかり採っていると、ターゲットに対する発見率が上昇する反面で、それ以外の対象物が目に入らなくなってくる。俗に「最適化の罠」と呼ばれる現象である。
その対策として二つ目の【採掘】を取得し、本来専門とする対象とそれ以外とで使い分ける――という裏技が瑞葉によって提案され、その有効性が確認されている。
「原石以外向けに、【採掘】をもう一つ取ってもいいんですけど……」
「う~ん……まぁでも、ここらでだって原石は採れるかもしれないし。ナンの町の復興クエストで、原石とか薬草とかは採れ易くなってるそうだから」
「それって、ここにまで影響してるんですか?」
「可能性はあるんじゃない? 少しだけ――とか」
「「はぁ……」」
まぁ、駄目元で探してみるのもいいだろうと、二人は辺りに目を配り始めるが、そのタイミングでシュウイの注意が飛ぶ。
「あ、念のためだけど、野営向きのポイントも探しておいてね」
「野営の適地?」
「村に泊めてもらうんじゃなかったんですか?」
意外そうな不可解そうな新人たちであったが、シュウイは密かに懸念している可能性を口にする。




