第百二十九章 逃亡者と追跡者 4.飛ばされた者(その2)
モックとエンジュが口々に糾弾するように、現在地がナンの町郊外であるとは考えにくい。それは確かに解るのだが、【迷子】の移動距離についてはスキルレベルに依存すると、ちゃんとヘルプファイルに書かれている。前回のナンの町への移動がイレギュラーであったのは判っているから、通常の移動距離はそれより短い筈。間違っても、地形が変わるような距離を移動はできない筈なのだが……
「あの――それってスキルなんですよね? だったら、MPの消費量から移動距離の見当が付いたりしませんか?」
「――あ」
モックに言われて気が付いた。前回と今回の跳躍がイレギュラーであったとしても、スキルである以上は移動に見合ったMPを消費している筈だ。
SROでは、プレイヤーがステータス値を直接に管理する事はできないが、別にマスクデータとなっている訳ではない。閲覧だけならステータス画面から可能である。
幸い、出発する前にスタータスの値はチェックしているし、ついでに言えば前回の転移以来【迷子】は使っていないので、スキルのレベルも変化していない――つまり、MPの消費効率にも差は無い。
要するに……前回と今回の消費MPを比較すれば、少なくとも〝トンの町~スーファンの宿場町〟間の距離と較べてどれくらいなのか――それは判るのではないか?
「あ……駄目か。人数が違いますね」
「う~ん……単純に三で割ったらいいんじゃないかな」
ものは試しとばかりに、シュウイがステータス画面を確認したところ……
「………………」
「あ、あの……」
「どうなんですか?」
「……うん……人数を勘案しても、前回よりも消費MP量が多いね……」
「そ、それってつまり……」
「ナンの町から移動した距離だけを考えると、イーファンよりも遠くへ飛ばされた事になってるね」
――なぜそういう事になっているのかの検討は後に廻すとして、問題は現在位置である。
「……多分ですけど、未開放のシアの町に飛ばされた可能性は低いんじゃないでしょうか」
そうモックが意見を具申するが、シュウイはそこまで楽観的にはなれない。何しろ前回【迷子】が連れて行ったのは、やはり未開放のスーファンの宿場町であったのだ。
(……けど、運営だって同じ轍を踏まないように、修正パッチくらい当ててるかもな)
そう考えると、モックの意見は即座に却下すべきではない――そう思えてくる。
「次に……王都方向に飛ばされた可能性は、もっと低いと思います」
「それは……確かに」
「納得できる気がするね」
「そして、ナンの町の南に飛ばされた可能性ですけど……シュウイ先輩、さっき【方向音痴】がどうとかって仰ってましたよね?」
「え? あぁ、うん。そういうスキルを拾って、アンロックしないまま放っといたんだけど……気が付いたら解放されてた。多分【暴発】のせいだろうね」
「僕は能く知らないんですけど……名前からしてそのスキル、目的地に到達するのを邪魔するんじゃないですか?」
「うん……あ、そうか。僕らはナンの町の南を目指してたんだから、【方向音痴】が仕事したとするなら……」
「南下した可能性も除かれる訳ですか……」
「つまり……消去法で、ここってトンの町の近く?」
「作業仮説としては成立しませんか?」
「「う~ん……」」
――確かに、仮説としては成立しそうだ。他に検証の当てが無いなら、この仮説に従って動いてみるのもいいだろう。
(……てか……要ちゃんが言ってたよね? 巡礼が向かう『隠れ里』って、トンの町の外れにあるんじゃないかって)
それに、〝技芸神の神殿に至る道は、巡礼者に自ずと示される〟――という話を照らし合わせると、
(……これって、モックが〝呼ばれた〟って事なのかな?)
本日21時頃、「マヨヒガ」更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。




