第百二十八章 脱獄クエスト顛末 4.幸と不幸な邂逅(その1)
(……ふ~ん? 何か前方に隠れて待ち構えてるのがいるけど……コレは……久しぶりのボーナスかな……?)
昼間なので【梟の目】こそ使っていないが、それでも【虫の知らせ】【嗅覚強化】【気配察知】【イカサマ破り】、それに新規取得の【生命探知】というスキル五つを重ね掛けして警戒に当たっていたシュウイにとっては、スキルも何も無しで隠れ……たつもりになっている素人など、察知するのは朝飯前であった。
そして――
(……こんな早朝、それも人目に付かない裏道で息を潜めて待ち構えてるって……これはもうPKの可能性大だよね♪)
死神系の二つ名を山ほど頂戴しているシュウイにとっては、PKだのPvPだのというのは、滅多に貰えないご褒美でしかない。この時も幸運の予感にワクワクと胸をときめかせつつ待っていると、
「やぃやぃ小僧ども! 命が惜しけりゃ温和しく身包み置いていけ!」
木の影から突然飛び出した男が矢庭にそんな事を口走るものだから、モックとエンジュの二人は呆気にとられ……そしてシュウイは〝キターッ♪〟とばかりに舞い上がっていた。ボーナスステージ確定である。
それでも一応――歌枕流を仕込んでくれた祖父の教えに従って――気を緩める事無く相手の技倆を量る。弱者の振りをして油断を誘い不意を衝くなど、戦場においては常套手段なのだ。
……ちなみに、〝女顔の童顔で強者に見えない〟自分こそがその好例であるという自覚は、当然ながらシュウイには無い。
(ふーん……見た感じだと構えも足捌きもなってないし……警戒するとすればスキルかな? けど、【虫の知らせ】には何の反応も無いし……)
既にLv10に達している【虫の知らせ】は、相手が何かスキルを使おうとするなら、その起こりを感知する事ができるようになっている。
余談ながら他の警戒スキルのレベルは、【嗅覚強化】と【気配察知】がLv9、【イカサマ破り】がLv6である。それを豪気に重ね掛けしているのであるから、俄PKの隠れんぼなどが通用する筈も無い。
ともあれ――
(ま、何かスキルを使いそうになったら、【しゃっくり】で邪魔してやればいいか)
などとシュウイなりに考えていたのだが、それがPK(笑)の癇に障ったらしい。
「聞いてんのか、ガキ!」
激昂して剣を振り翳す――脅しのつもりらしい――男に向かい、シュウイは面倒臭そうに言い放つ。
「あー……はぃはぃ、御託はいいから、さっさとかかって来て」
「……ん……だと……このガキィッ!!」
逆上した男が――スキルも何も無く――斬りかかってくるのを、体捌き一つで悠々身を躱すと……シュウイは何を思ったか、手に携えていた愛杖をモックの手に委ねる。
「……杖には悪いけど、ちょっと試したいものがあるんだよね」
そう言って懐から取り出したのは、テムジンに造ってもらって以来出番が無く、ずっと髀肉の嘆を託っていた万力鎖。
流派によっては分銅鎖とか玉鎖などと言う事もあるが……実はこの「万力鎖(仮称)」、シュウイの持つ【暗器術 初級】は疎か、SROに数多ある武器アーツの中にも存在していない技術であった。
尤も、【スキルコレクター】の制約によってスキルやアーツの意図的な取得がほぼ不可能となっているシュウイにとっては、SRO内にアーツが有ろうが無かろうが関係無い。幸運にも祖父から伝授されている「歌枕流」の古武術だけを縁として、全てをパーソナルスキルで乗り切る肚であった。ゆえに、接近戦用の武器として選んだ「万力鎖(仮称)」がSRO内に有ろうと無かろうと、斟酌する気は毫も無かったのである。
……ちなみに、本来は修験者の護身術として誕生した筈の歌枕流に、修験者らしからぬ技術の数々――十手とか鎖鎌とか――が伝わっている理由については不明である。




