第百二十八章 脱獄クエスト顛末 3.脱獄クエスト(その2)
《脱獄の第一ステージを完了しました。引き続き逃亡ステージに移ります》
《この後の方針を決めて下さい。
1.このまま逃亡する。
2.暫くこの付近に留まって逃走資金を稼ぐ。資金獲得の手段には、PK等の非合法行為も含まれます。
1/2》
「あー……成る程ね……」
着の身着のままとは言え、牢から何の支障も無く脱獄できたため、こんなに簡単でクエストになるのかと内心で訝っていたのだが……どうやらクエストはここからが本番らしい。
「さて……金もアイテムも没収されたし、逃げるにも先立つものが無いと――ってのは理屈だけど……」
問題は、今の自分にPKなんて真似ができるかどうか――その一点に懸かっている。
抑PKプレイを目指していた訳ではないのだから、その手のスキルは取得していない。脱獄を選んだ時点で悪堕ちは覚悟しているが、現時点でそれを実行に移せるかどうか。
「……いや……仮にもクエストなんだから、何かスキルとか拾ってないか?」
SROでどうだったかは知らないが、他のゲームではクエストと関連して、特殊なスキルを得るケースがあった筈。スキルの取得がクエストの開始時点であったのか、それともクリアー時点であったのかは憶えてないが、
「確かめるくらいなら問題無いよな」
逮捕された時に所持金もアイテムも全没収され、スキルは全て封印された。それに加えて、収監されていたのを悪堕ち覚悟で脱獄した訳であるから、バッドステータスの一つくらい付いていてもおかしくない。そう思って画面を眺めていた視線が、或る一箇所で動かなくなった。
「何だこれ? 【詐称】? ……こんなスキル持ってなかったよな?」
ログを確認してみたところ、どうも脱獄クエストを受注した時点で取得したようだ。という事は、これは脱獄クエストに関係するスキルという事だろう。
期待半分、不安半分で有効化して確かめてみたところ、
「……【鑑定】を誤魔化す事ができるのか。まさしくPK御用達ってスキルだよな」
実はこの【詐称】というのはPK職の専用スキルであって、ステータス表記を偽る事ができる。より正確に言うと、名前と職業、犯罪歴(マーカーの色)を擬装する事ができるのである。
PK職というのは正式な職業ではないので、キャラクタークリエイトでは取得できず、悪堕ちする事で取得が可能になる。ただしその取得SPが高い事もあって、態々このスキルを取らないPKプレイヤーも意外と多い。
ちなみに彼は「脱獄クエスト」という特殊クエストを受注した事で、SPを支払う事無く取得できていた。まぁ、或る意味で文字どおりの「拾いもの」なので、
「ラッキー♪ こりゃもうPKルートに進むしか無いよな♪」
これぞ神様のお導きであるとばかりに、あっさり恬と方針を決める。
……彼は忘れていた。
世の中には〝悪意を持った神〟というのも存在し、悪堕ちした者にはそういう神こそが相応しいのだという事を。
「――お♪ 丁度好い獲物がやって来てるじゃねぇか。こりゃ幸先良いわ」
ルンルン気分で待ち構える彼の目には、頼り無さそうな子供たち三人組の姿が映っていた。




