第百二十八章 脱獄クエスト顛末 1.PKギルド(仮)、動く
「……脱獄した? 確かなのか?」
『あぁ。どういう手を使ったのかは判らんそうだが、脱獄したのは間違い無い。気付いたら蛻の殻だったそうだ』
「それはまた……しかし、だとするとこちらの予想どおりだった訳だ」
『ここまでのところはな。あのバカがこの後どこに現れるのかは判らんが』
「まぁ、それを見越してあちこちにメンバーを配置してるんだ。最低でも足取りくらいは掴めるだろう」
『そうあってほしいもんだ。じゃ――10-4』
「あぁ。10-10」
夜も明け遣らぬ朝未き、ナンの町外れの小径沿いに潜んでいたPKプレイヤーの男は、PKたちの互助会――仮称・PKギルド――との通話を終えた。
愚かしくもナンの町に対してMPK行為をしかけたような形になり、当然の結果としてナンの町の牢に収監されたプレイヤーについて、「脱獄クエスト」が発生するのではないかという噂はあちこちで囁かれていた。就中、この問題に熱中したのがPKたちである。或る意味で職業的興味と言えなくもない。
そんな彼らの討論の中身を、掲示板から覗いてみよう。
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PK職専用掲示板[92]
1:無名のPK
ここはPK職専用の掲示板だ。お互い暇じゃないんだから、下らないお喋りなんかじゃなく、必要な情報だけ上げてくれ。
次スレは>>950を踏んだやつが立ててくれ。
過去スレ:PK職専用掲示板[1]-[91] ※格納書庫を参照のこと
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374:無名のPK
>>371
脱獄クエストか……。仮にそれがあるとして、どういう形式だと思う?
375:無名のPK
他のゲームを参考にすると……スキルとアイテムを大判振る舞いして物理的に牢を破壊し、追って来る斃死をバッタバッタと薙ぎ倒して――
376:無名のPK
>>375
どこのインディヒーローだよwww
377:無名のPK
>>375
そもそも逮捕されて週刊される時に、所持品検査ぐらいされるだろ
378:無名のPK
>>375
仮にそうやって脱獄したとしても、追撃を振り切るのは指南の業じゃないか?
379:無名のPK
火だるまだな、375
380:無名のPK
炎上中
381:無名のPK
375が挙げたゲーム、確か城から脱出したらゲームクリアーじゃなかったっけ? 今度の場合それは無理じゃないか?
382:無名のPK
>>381
いや……城と言うか、牢のある建物から脱出した時点で追っ手が領兵から冒険者ギルドに引き継がれる仕様で、その手続きに時間がかかるとか
383:無名のPK
>>382
何というお厄所仕事www
384:無名のPK
>>382
ありそうでコワいわ
385:無名のPK
特にここの運営だとな
386:無名のPK
382のいう可能性もあるが……それだとPK的スキルの出る幕が無いんじゃないか?
387:無名のPK
>>386
kwsk
388:無名のPK
いやな、脱獄自体は何かマカ不思議な力とかですませて、そこからの逃亡がメインという可能性は?
389:無名のPK
あー……確かに
390:無名のPK
そっちの方がPKっぽい……かな?
391:無名のPK
本人に聞くしかないんじゃね?
392:無名のPK
本人……って、脱獄するバカか?
393:無名のPK
>>391
たしかに……脱獄クエストが本当にあるんなら、他人事じゃないしな
394:無名のPK
脱獄後に身柄を確保してGo……訊問かな?
395:無名のPK
>>394
何を言いかけた?(笑)
396:無名のPK
>>391
悪くはないな。脱獄後、大通りに出るとは思えんから、裏道小道に人を配して捕獲か?
397:無名のPK
>>396
悪くないのはどっちの提案だ? Go? 捕獲?
398:無名のPK
>>397
両方セットだろ? 当然
399:無名のPK
そーいえば、捕まる前に逃げたやつがいたろ? アレはどーなってるんだ?
400:無名のPK
ギルドとしては受け容れない方針が決まっている
監視が付いてるから暫く養殖して、美味しく前科が積み上がった頃に狩るんじゃね?
401:無名のPK
>>400
養殖……何という哀れ
402:無名のPK
俺たちは立場上賠償を請求で金のだから、これくらいの役得はないとな
403:無名のPK
>>402
今回は賠償請求しても受けてくれるんじゃないか――って意見もあるみたいだが(笑)
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(以下、続く)
※〝大判振る舞い〟も含めて、掲示板の誤字は仕様です。
※テン・コードの例
10-4……諒解
10-10……通信終了




