第二十二章 トンの町 3.再会と弁明
「ケインさん、お久しぶりです」
「ああ、シュウイ少年も……その……元気そうだな」
「あ……ひょっとして引いちゃいました?」
「あ、いや……うむ……少しな」
これは説明しておかなきゃ駄目な流れだね。ケインさんたちに誤解されるのは避けたい。
「誤解しないで欲しいんですけど、僕は別に戦闘狂とか解剖マニアじゃありませんから。必要に駆られて確かめただけです」
シュウイの言葉に見物人がざわめく。全員が耳を欹てているのを確認したシュウイは肚を括る。既に目立ってしまっているのだ。この際だから、自分が危険人物でない事だけは知ってもらおう。モンスター扱いされるんじゃ哀し過ぎる。
「僕は未だ本格的な武器スキルを取ってませんけど……」
シュウイの言葉に見物人がどよめく。
(「嘘だろう……」)
(「アレ全部パーソナルスキルって事か?」)
(「待て。体術スキルを持ってるんじゃないか?」)
(「あぁ……そういう事か。さすがに全部パーソナルスキルって事は無いよな」)
(「いや、体術だけで充分やってけるんじゃないか?」)
(「あれなら武器スキルなんか要らんだろう……」)
「……スキルを取る前に、SRO内での身体の構造を知りたかったんです。それによって効果的な闘い方が違ってくるから」
「……どういう事だね?」
「例えば、さっきのPvPで僕は相手の口の中に手を突っ込みましたよね? けど、確かめるまではそれができるのかどうか判らなかったんです。そもそも内臓があるのか、いえ、それ以前に喉の奥があるのかどうかも判りませんでしたから」
(「……そういやこのゲーム、空腹感や喉の渇きはあるのに、便意や尿意は無いよな」)
(「……喩えが下品だが、そういう事だろうな」)
(「確かに、内臓があるかどうかは攻撃のパターンにも影響するな」)
(「槍を口の中に突っ込んだ場合、内臓を傷つける判定が有るか無いかは結構大きいぞ?」)
「それで試してみたってわけ?」
「はい。モンスターや動物では、狩ったそばから消えていって確かめられませんでしたから」
「PvPを利用した、と」
うん。何とか理解してもらえたかな?
「いやぁ~、俺はてっきり、坊主が気に食わないやつを嬲り殺しにしてるのかと……」
「嬲り殺しはないですよ。あ……でも、ポーションで回復させればもう少し保ったのかな……?」
ポツリと漏らしたシュウイの言葉を聞いた観衆が一斉に二歩ほど下がる。
「いや、シュウイ君、あまり危ない発言してると、皆が引くからね?」
「あ……失礼しました。今のは非公式な発言です」
( 「「「「「本音って事じゃねーか!」」」」」 )
心中で一斉に突っ込む見物人一同。
「とにかくそういう訳で、僕は殺人嗜好症でも解剖フェチでもありませんから」
「でも……シュウイ君、嗤ってたわよね?」
え?
「……僕、笑ってました?」
「嗤っていたな」
……そ、そうなのかな?
「え~と、それはほら、久々に身体を動かせて楽しかったというか……」
「……連日狩りをしてるとか聞いたけど?」
「いえ……だから……プレーリーウルフやスラストボアだと闘い方が単調になるんですよ。モノコーンベアは滅多に出ないし。……かといって、ギャンビットグリズリーをソロで狩るのは、まだまだ僕には難しいですし」
( 「「「「「スラストボアやモノコーンベアもソロで狩る相手じゃねえよ!」」」」」 )
見物人の心の叫びがシュウイに届く事は無い。




