第百二十六章 篠ノ目学園高校文化祭(二日目) 5.食堂~コース選択の問題~
前話の修正に伴い、本文に一部加筆しました(2023/08/08)。
――ここで一旦、場面を篠ノ目学園に戻す。
「モックの話では、神殿の場所は能く判らなかったって言うんだよね」
「〝道は自ずと示される〟んだったかしら?」
「でもでも蒐君、どっちの方角なのかくらい判ってないの?」
全くの五里霧中では厳しいだろうという、茜の懸念も尤もであるが、これに関しては蒐一にも手懸かりのようなものがあった。
「ブランド……さんが言ってたんだよね。何て言うか……隠れ里みたいなのが、トンの町の郊外にあるって」
蒐一が口籠もったのは、まだ正式に師事していない段階で、ブランドの事を師匠呼ばわりするのは早いと思ったからのようだが、幼馴染みたちの意識が集中したのはそこではなかった。
「「「〝隠れ里〟――!?」」」
「と言っても、厳密に秘匿とか隔離された秘密の場所っていうんじゃなくて、あまり知られていない寒村――っていうような感じらしいけど」
「いや……設定上はそうだとしても、実際問題としてプレイヤーには知られてないんだよな?」
「確証は無いけど……多分ね」
そうすると……嘗て「マックス」が開放した形のリャンメンの村のような場所だろうか。あの時はアルファンの宿場町が開放されて攻略が進むという結果をもたらしたが、今回もそれに準じた形だとすると……
「いえ……そこが奉納クエストに関わっているとすれば、これは飽くまで吟遊詩人に関連した場所の筈よ。街道からは外れていそうだし、位置的に見ても攻略に直接関わるような場所とは考えにくいんじゃないかしら」
ヒートアップしていた匠も、冷静な要の指摘で沈静化し、目の前の問題に目を向ける。この場合は隠れ里の位置というより、そこに至るルートが問題であろう。
「え? モックって子にナビゲーターしてもらえばいいんじゃないの? 〝道は自ずと示される〟んでしょ?」
「そうは言うけどな茜、蒐のやつを探ってる連中がいるだろうが」
「あー……そっちかぁ」
シュウイの――正確には〝腕の良い採集人〟の事を探っている王都勢がいる現状では、堂々と街道を通ってトンの町に戻るのは好ましくない。言い換えれば、人目に付かない裏街道の情報が必要になる。冒険者ギルドに問い合わせるというのも一つの手であろうが、
「茜たちがナンの町まで辿って来たルートって、結果的に裏道だったんだろ? 人目には付きにくいんじゃないのか?」
意図的に人目を避けて動いた訳ではないが、イーファンの町外れに住むウィルマからの依頼で向かった先はナンの町南東の山、人跡稀な原野にあるイビルドッグの巣であった。そこで依頼を熟した後は、再びウィルマの住まいへ立ち戻り、そこから今度は届け物クエストを達成するためにナンの町へやって来たのだが……
「……イーファンの宿場町で新人指導を押し付けられたら面倒だからって……」
敢えてイーファンの宿場には戻らずに、ウィルマの住まいから直接ナンの町を目指したらしい。その結果、人通りの少ない裏道を通ったような形になった訳だ。
「……て事は……蒐の【使役術】の事も考えると、イビルドッグをテイムするのが一番か?」
「えー?」
面倒そうな予定を勝手に決められそうになって、蒐一が不満そうな声を上げるが、そこへ割って入ったのが要である。
「いえ、ちょっと待って。イビルドッグ関連はウィルマさんからの依頼を受けてやった事だから、私たちの口から巣の場所は明かせないわよ?」
「あ……そっか、そうだよね」
「寧ろ、その前にバーバラ先生の家を訪ねるべきじゃないかと思うのよ」
「あ……そう言えばバーバラ先生の家って、ナンの町の郊外だったっけ」
「えぇ。バーバラ先生なら、イビルドッグの件も上手い具合に采配してくれそうだし」
使役術師の大先達に会えるとなれば、これは蒐一にも否やは無い。ナンの町を出た後は、まずバーバラの家を目指すのが良かろうという事になる。
それで話は終わったかと思ったのだが、




