第百二十四章 篠ノ目学園高校文化祭(一日目) 8.食堂~シュウイ・リポート~(その3)
暫く考えを纏めていた幼馴染みたちだが、やがて口々に各スキルに関する情報を話し出す。
「【身体強化】と【生命探知】はコモンスキルだから知ってるな? 【掘削】ってのは穴掘りスキルだけど、道具を使っての穴掘りには補正がかからないから注意しろ。【整地】ってのは、その名のとおり地面を整地するスキルだったと思うが、詳しい事は知らん」
「あ、【整地】は自分の進んだ後ろしか整地できないんだって。スキルの発動中は、何か『重いコンダラ』を引っ張ってるみたいで大変なんだって聞いたよ」
「【修羅】と並んで『二大コンダラスキル』って呼ばれてるらしいわね」
匠の説明を補足したのは意外な事に茜であったが、そこに衛里花が更なる蛇足を付け加える。が――蒐一が引っかかりを覚えたのはそこではなく、
「【修羅】がコンダラスキル?」
怪訝そうな蒐一の表情を見て、〝あぁ、やっぱりそこに引っ掛かったか〟――と言いたげな表情を浮かべる幼馴染み達。
「準レアスキルにしては情報が広まってるんだけどね……【修羅】って言っても闘神の方じゃなくて、運搬道具の方なのよ」
「あ……ひょっとして、古代に石の運搬とかに使われてた、橇みたいなやつ?」
「そう。勘違いして取得して、中身を知って腹立ち紛れに捨てるプレイヤーが続出したの。スキルとしては悪くないらしいんだけど、引っ張るのに力がいるのよね」
「それでコンダラなんだ……スキルの説明には〝修羅を操る〟としか書かれてなかったから……」
「それも含めて運営の罠だよな」
説明を聞いた蒐一はげんなりした表情を浮かべるが、スキルそのものは――癖があるにせよ――使えそうだと思い直す事にする。文句を言っても詮無い事だし。
他のスキルは?――と視線で訴える蒐一に応えるように、
「【バーテンダー】――これも比較的珍しいスキルだけど、カクテル作りが巧くなるスキル……だったよね?」
説明を買って出た衛里花もあまり自信が無いのか、途中から要に確認を振ったが、要の脳内データベースには、ちゃんと登録されていたらしい。
「えぇ。持っていると【調薬】にプラス補正がかかるから、実は結構人気があるんだけど、スキル枠の制限がきつくなると、惜しまれつつ捨てられるようになるスキルね」
「残りのスキル……【早口言葉】【舌先三寸】【大道芸】については聞いた事が無いな。多分だけど、こっちはレアスキルなんじゃないか?」
「あ、【早口言葉】と【舌先三寸】は確かめてみた」
「おー、さすが蒐君、仕事が早い」
昨夜確認した【早口言葉】【舌先三寸】の説明文をそのまま述べると、幼馴染みの面々も微妙な表情を隠さない。
「……【早口言葉】はともかく、【舌先三寸】ってのはとんだ地雷仕様だな」
「うん、即行で捨てられるレベル」
「名前を見ただけで捨てられそうよね」
匠・茜・衛里花が揃って否定的な評価を下すが、こういう時に別視点からの異論を示すのが要である。
「いえ……そうとも言えないかもしれないわね。これだけのデメリットを示すからには、それに釣り合うだけのメリットもある筈……運営はそれを暗示しているんでしょうね」
「「「「あ~……」」」」
役立たずと思って捨てたスキルが、実は有用不可欠なスキルであった。しかも一旦捨てた以上、再取得するのは難しい。……成る程、ここの運営が好みそうなトラップである。
「効能が話術と味覚の補正と明記してある以上、それらが重要になる展開が待ち受けている……そう捉えるべきなんでしょうね」
味覚系スキルに関しては、もうじき「満腹度」が実装される事と、何らかの関係があるのかもしれない。……という事は、他の味覚系のスキルも、
「……迂闊な扱いはしない方が良さそうだね……」
「けど――こういうのが増えてくると、ソロでやってる連中はきついよな。パーティならスキルも分担して取れるけど」
「その辺りは運営も何か考えてるんじゃないかしら」
「けど……怪しいのは何と言っても『話術系スキル』だよね」




