第百二十四章 篠ノ目学園高校文化祭(一日目) 5.食堂~愚か者たちの末路~
ここで話題はナンの町半壊を引き起こしたプレイヤーへと移る。彼らについては――
「即決裁判で有罪になった――って聞いたけど?」
「えぇそう。住民と異邦人を交えた裁判でね。満場一致だったそうよ」
――ここだけの話であるが、陪審員にはPKプレイヤーからも一人選出されていた。無論、その彼も有罪に一票を投じている。
「当然だよね。で、量刑は? 牛裂き? 鋸挽き? 蓑踊り? それとも腹の上に生きたネズミを置いて鉄の容器を被せ、その上で火を焚いて……」
「ストップ、ストップ!」
「いや……このゲーム一般指定だから、R15展開は無いよ」
「え~? 他にも漏斗で水を無理矢理飲ませ続けるとか、焼けた鉄串を尻の穴に突き刺すとか、ピラニアの水槽に投げ込むとか、首だけ出して土に埋めて、顔に蜜を塗りたくってアリに集らせるとか……」
「だから……そういう発想から離れろ、蒐」
「テロリスト相手に容赦は無用じゃん? どうせゲームの中なんだし?」
正に蒐一が言ったように〝どうせゲームの中なんだから〟という理由で、極刑に躊躇いを見せたものもいたようだが……被害が住民だけでなくプレイヤーにも及ぶとなると、そういった声も掻き消されようというもので……
〝あら? だったら解りやすい言い方にしましょうか? 貴方たちの愚行のせいで、ナンの町のNPCに預けてあった武器や素材その他がロストしたのよ。そういうプレイヤーは他にも大勢いるわ。当然賠償を請求できるわよね? 貴方たちに支払えるの?〟
〝他にも、現在の最前線基地であるナンの町の半壊によって、ゲームの進行は著しく阻害される事になる。これは運営がそう言っている。つまりユーザー全員に、時間と料金の損害を与えたのは事実だよね?〟
〝そんなお前等をこのまま解放して、民意が収まると思うのか?〟
〝正直このシステムはどうかと思わなくもないけど、今回は必要と思うのよね〟
――という意見の方が大きかった。
「じゃあ、判決は?」
「重懲役」
SROでは、能くあるようにアカウントを作り直して懲役を回避する事はできなくなっている。
抑複数アカウントの取得ができない上に、アカウントの作り直しも簡単にはできない仕様になっている。なぜこんな面倒な事を――と訝るユーザーも少なくなかったが、どうやらこういった事態を想定しての仕様であったらしい。
もしも件のプレイヤーが、懲役回避の目的でSROを脱退した場合、当人のアバターはNPC化されて処刑される事になるそうだ。規約にもちゃんとその旨明記してあるというから、運営の想定内の事態であったのは確かだろう。
で、最終的にどういう結果になったのかというと――
「捕まった四人のうち、三人は温和しく任意同行に応じたんだが、一人は抵抗して逃亡したんだと。こいつは悪堕ちしたんじゃないかって言われてるな。まぁ尤も――」
気を持たせるように一呼吸置いた匠が続けて言う事には、
「……PK連中も頭にきてるらしいから、早晩狩られるんじゃないかって話もあるけどな」
SROの事だから、悪堕ちのクエストというものがあるのではないか――という根強い意見があるらしい。ただ、今回はナンの町という活動拠点が損壊された事で、他の悪堕ちプレイヤーからも総スカンを喰らう可能性が高いそうだ。その場合、件のプレイヤーがどう動くか、これは予断を許さないらしい。
「連行された三人のうち、罰則を聞いて納得できないとした一人は退会を表明したって話だ。これは処刑扱いになってアカウントの再取得は難しいって話だな」
「じゃ、残り二人は温和しく刑に服するんだ?」
素直にそう訊いた蒐一であったが、匠と衛里花の二人は難しい表情を隠さない。
「それがなぁ……」
「『脱獄クエスト』があるんじゃないか――そういう噂があるのよね」




