第百二十三章 冒険者ギルド宿泊室 1.思わぬ拾いもの(その1)
救護所での仕事を終えた夕刻、冒険者ギルドが用意してくれた宿泊室――一応個室――に戻って来たシュウイは、ふぅと小さな溜息を吐いた。
碌に使った事も無い【聖魔法】だったが、案ずるより産むが易しとは能く言ったもので、どうにか治療を済ませる事ができた。ジュナもしっかりサポートしてくれたし。
……患者の中に一人か二人、シュウイの事を知っているような素振りの者もいたが……まぁ、口止めしておいたから大丈夫だろう。どのみちナンにはそう長く滞在する気は無い。……いや、長滞在する気が無くなったと言うべきか。
「タクマとケインさんから警告も貰った事だし……面倒な連中に絡まれる前に逃げ出すべきだよな」
〝凄腕の採集人(たち?)〟を探しに来たという、王都からの来訪者たち。冒険者ギルドの韜晦や「黙示録」とその友好パーティの欺瞞行動の甲斐もあって、目下のところは見当違いな方向で吟味を進めているようだが……そっち方面で目当ての情報が得られないとなると、一転してどこに探索の手を伸ばして来るか知れたものではない。そこにシュウイの姿があれば、その赫々たる戦歴に鑑みて、彼らの関心を買う可能性は高い。その面倒を避けるためには……
「……救護所の仕事もあるし、今直ぐにとはいかないけど、できるだけ早いうちにナンの町を離れる算段をしておいた方が良さそうだな……」
折角ナンの町に集まったというのに、面倒な連中に目を付けられないために、タクマやカナ・センたちと旧交を温める事もできていない。……いや、互いに忙しくてその暇が無いというのもあるのだが。
一つ溜め息を吐いてから基本的な方針を確認した後、シュウイはより差し当たっての問題に意識を向ける。何かと言えばステータスである。
昨日は到着の時刻が遅かったので、ステータスの確認をする間も無くログアウトした。そのせいでステータスの確認を済ませていない。
今日は今日で――ジュナともども――【聖魔法】の【治癒】を使い倒してきたのだ。レベルもさぞや上がっているだろう。
いそいそとステータスの確認に取りかかったシュウイであったが、
「……何だこれ?」
チェック開始早々に、当惑の声を上げる事になっていた。
【聖魔法】のレベルは確かに上がっていたが、それは予想されていた事なので訝しくはない。シュウイに訝しみの声を上げさせたのはそれではなくて――
「身に憶えのないスキルを幾つも拾ってるんだけど……僕、宿泊室と救護所の往復しかしてないよね?」
シュウイの困惑のネタ――すなわち、新たに拾ったスキルを並べてみると、以下のようになる。
【身体強化】【生命探知】【バーテンダー】【早口言葉】【舌先三寸】【大道芸】【整地】【掘削】【修羅】
「どこでこんなスキル拾ったんだろ? ……ナンの町って、そんなにスキルが捨ててあるのかな?」
前にナンの町に来た時は、そこまでスキルを拾わなかったような気もするが……
「いや……あの時は【従魔術(仮免許)】と【召喚術(仮免許)】、それに【般若心経】を拾ったんだっけ。けど……」
あれは飽くまでクエストに付随したものだった筈。街中でヒョイヒョイと拾ったものは無かったと思うが……?
「……やっぱりクエストか何かに関係してるのかな? クエスト期間中はスキルを拾い易くなるとか?」
強ち間違いではなさそうな気もするが、それにしては拾ったスキルのラインナップに脈絡が無い。のみならず……
「【身体強化】【生命探知】【掘削】って……確か、コモンスキルだよね?」
拙作「転生者は世間知らず」書籍版の書影が公開されました。ご関心がおありの向きは、当該作の「書籍化のお報せ」をご覧下さい。……ここに貼るのも場違いに思えますので。




