第二十一章 篠ノ目学園高校(月曜日) 1.昼休み
「邪道って……また妙な事やってんな~」
週明け早々の昼食会で僕に向かって失礼なコメントを寄越したのは匠。これでも僕の親友だ。今日も図書委員会の仕事があるという要ちゃんを除いて、三人でいつものようにお昼ご飯を食べている。
「けど、蒐君、【錬金術(邪道)】に【調薬(邪道)】って、どんなスキルなの?」
「基本的に、できあがるものは普通の【錬金術】や【調薬】と変わらないんだけど、作成手順が少し違うみたい。レベルが上がると判んないけど」
「まだ使ってないんだ?」
「まだだよ。道具も素材も揃ってないし、【調薬(基礎)】を【調薬(邪道)】に変えた時点で、なんか疲れたっていうか」
「あ~、なんか解る気がする」
茜ちゃんに言ったとおり、昨日【調薬(基礎)】を【調薬(邪道)】に変えた後でもまだ時間はあったんだけど、何も情報がないスキルを試してみるには準備が不充分って気がしたんだよね。大体【錬金術(基礎)】でもジュースを搾り取るのに失敗したのに、いきなり【錬金術(邪道)】でやっても結果の評価ができないよね。
面倒な課題も出てたし。……あれ? 匠は大丈夫なのか?
「匠、三角測量を使って多角形の面積を求める課題、終わったのか?」
地理の課題で三角測量をやってみるというのが出てたんだよね。効率的に計測するにはどこから手を付けたらいいのかで頭を捻ると思うんだけど……
「あ、あれか。フリーソフト使ってパソコンでちゃちゃっとやったわ」
パソコンって……三角測量でって、書いてあっただろ?
「……どうやったんだよ?」
「いや、だからスキャナーで図形を取り込んでな? 面積を求めるフリーソフトを使ったら簡単に出たぞ?」
「はぁ……それでOKが出るわけないだろ。問題文にはっきり『三角測量で』って、書いてあっただろ? 評点引かれてやりなおしだな」
「マジかよ! ……蒐、頼む!」
「写させてくれって言っても、もう時間無いぞ? 地理は五時間目だろ?」
「いや! 加賀は課題を授業の最後に集めるから、まだ一時間以上ある!」
「蒐君! お願い!」
「……って、茜ちゃん、まさか……匠のを写したの?」
あ~……こりゃ駄目だ。
「しょうがない、急いで僕のノートをコピーして渡すから、あとはそっちでやってよ? 匠、コピーをノートに貼って済ませようとするなよ?」
あの時は僕まで叱られたんだからな。
「恩に着る!」
「ありがとう!」
それからは弁当もそこそこに僕たちは教室に引き返して、大慌てでノートのコピーを済ませた。二人とも提出にはなんとか間に合ったみたいだけど……加賀先生もやるなぁ、まさか授業の途中で課題を回収するなんて。二ヶ月かけて生徒を油断させた訳か……。うん、要ちゃんと話が合いそうな先生だね。




