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第百二十一章 小鳥(バード)の鈴 6.舞台裏~SRO開発部~(その3)

 一同が再び懊悩(おうのう)に沈んでいたところ、〝窮すれば通ず〟というやつで一人が思い付いたのが、



「……いや……拍手というなら()(びょう)()でいいんじゃないか?」

「あ……成る程」

「手拍子なら簡単な曲も幾つかありそうだな」

「それこそ民謡とか演歌とか」

「節回しが似たものもあるから、案外使い回しも効くかもしれん」

「何より、候補の数が多いのが良いな」



 暫定的な方針が固まった事で、一同の表情に血色が戻る。


 ……だ・か・ら――こんな事を言い出した部員は、居並ぶ面々から白い目で見られる事になる。



「一つ気になる事があるんだが……」

「気にするな。お前の気のせいだ」

「いや……個人的には同意するが、そうも言っておれんだろう。……何だ?」

「あぁ、いや……民謡はともかく演歌だと、他の楽器に合う楽句(フレーズ)が少なくないか?」

「……それが何だと言うんだ? 鈴は他の楽器とは一線を画す事で決着しただろうが」

「いや……気になるのはモックというプレイヤーの事なんだ。彼にとって、『()(すい)の鈴』は飽くまでサブ楽器なんだろう? メインの楽器はリュートか何かじゃなかったか?」

「……チャランゴだったな、そう言えば」

「で・な……毛色の違う二種類の楽句(フレーズ)を憶えなきゃならない羽目に置かれたら……彼はどっちを選ぶと思う?」



 何やら不吉な気配を感じ取って、無言で顔を見合わせる部員たち。



「……より簡単な方を選ぶという事か?」

「或いは、既に効果が現れている方とか、な」

「つまり……彼はチャランゴを見捨てて……」

「鈴演奏家一直線という事か?」



 それが良い事なのか悪い事なのかは判らないが、〝想定を外れそうなルートは可能な限り潰す〟というのが、今や運営管理室や開発部をはじめとする運営サイドの総意となっている。ゆえに、上述のような展開は望ましくない。できればモックというプレイヤーには、リュートなりチャランゴなりを(つま)()まともな(・・・・)吟遊詩人(バード)に育ってほしい。



「……問題点の所在が判ってきたぞ。問題はチャランゴの課題曲なんだな?」

「同じ弦楽器という事で、リュート曲を流用するつもりでいたんだが……(まず)いか?」



 少なくともSRO(スロウ)の中においては、リュートはしっとりとした音色を特長とする楽器として位置付けられている。そんなリュートの練習曲や課題曲に、手拍子が似合う曲というのはどれだけあるのか。



「……チャランゴの曲選定を少し見直す必要があるか」

「どうせチャランゴは、明るく軽快な音色が特徴という触れ込みだったんだ。そっちの方面を探れば何とかなるだろう」

「当面は各国の民謡とかでお茶を濁せそうだしな」



 ――というところに、この問題は(・・・・・)落ち着いた。しかし……



「それもあるが……今のままだと、他の楽器を選んだプレイヤーにとって、鈴という楽器は敷居が高くならないか? いや、我々にとっては好都合なのかもしれんが」

「ふむ。逆にこれを、鈴の難易度調整に使えるかもしれんな。他の楽器からの転向が難しいという事で」

「待て。議論の方向がずれてきているぞ。今はモックというプレイヤーが、チャランゴを見捨てるかどうかというのがポイントだろう」

「仮に……モックというプレイヤーが鈴演奏家の道を選んだとすると……」

「……選んだとすると……何だ?」

「飽くまでも可能性の話なんだが……『()(すい)の鈴』は魔道具ではなく楽器、そういった認識が広まったりはしないかと……」



 またしても想定外の流れが発生しそうな雰囲気に、困惑の表情を浮かべる開発部員たち。その流れの(おもむ)く先がどこになるのか読めないため、対策の立てようもないのが更に困る。



「……その問題は開発部の所管ではない。我々は運営管理室の判断を尊重し、その決断を支持する……というのを開発部の総意にしようと思うが?」



 この提案は満場の一致を(もっ)て支持された。

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― 新着の感想 ―
[一言] つまり運営管理室は貧乏くじを引く事確定ですか…。
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