第百二十一章 小鳥(バード)の鈴 2.新人たちの処遇~モック篇~(その1)
さて、新人二人組の残る片割れ、モックの方はどうかというと、こちらは当初の予定どおり、無難にシュウイの助手を務めていた……最初のうちは。
こう言うと誤解を招きそうだが、モックが役に立たなかったという訳では決してない。寧ろはその逆であった。少し遠回しな話になるが、ここで改めてナンの町の状況……特に住民たちの認識というものに注意を向けてみよう。
多大な犠牲を強いられながらも、王都の冒険者たちの指揮の下、どうにかツインヘッドグリフォンの撃退に成功した事は既に述べた。しかし住民たちにしてみれば、それで万事が解決したと楽観する事はできなかったのである。
今回はトンチキな異邦人の暴走が原因であったとしても、ナンの町の直ぐ傍に、ツインヘッドグリフォンの群れなどという不穏な存在が居座っているのは紛れも無い事実。いつまた彼らの気が変わって、ナンの町に暴れ込んで来ないとも限らない。ゆえにこそ、ナンの町の冒険者たちは、一刻も早く旧来の防衛体制を再構築する必要があった。
だが……ここで問題になっているのが、防衛戦で負傷した冒険者たちの存在である。
彼らにしてみれば、一刻でも早く怪我を治して戦線に復帰したいのだが、生憎と被害の規模が大き過ぎて、絶対的に治療担当者の手が足りていない。ゆえに、負傷者の治療は最低限なものしかできず、万全の状態に復帰するなど望めなかった。つまりは戦力が涸渇気味であり、それは畢竟ナンの町の防衛が疎かになる事を意味していた。
冒険者たちはそれが身に滲みて解っているだけに、体調が万全でない事に目を瞑ってでも、一刻も早い退院を望む。
対して医療者の立場としては、患者を満足に動けない状態で退院させる事など容認できない。医療者のモラルがどうとか言う以前に、満足に動けない状態で無理をして、又候どこか怪我でもされては堪らない。ただでさえ逼迫気味の治療陣に、これ以上の負担をかけるなど論外だとの認識がある。
双方の主張が歩み寄りを見せないままに状況は硬直し、患者も医療者もそれぞれにストレスを抱え込む気配を見せ始めていた。
ここで事態を動かしたのが、「ワイルドフラワー」とシュウイの一行であった。
「ワイルドフラワー」の面々が大量の薬草とパワーストーンの原石を提供してくれたお蔭で、逼迫気味であった医療サイドにゆとりが生まれた。のみならず、カナとセンが持ち込んだ素材のお蔭で、医療スケジュールの圧迫要因であった治癒魔法と患者の属性不和合、それを改善できる目処が立ったのである。
更に、患者の属性を無視して治療できる【聖魔法】持ちのシュウイとジュナ主従が参戦した事で、人員の運用が一気に楽になった。シュウイもジュナも【聖魔法】のレベルは1でしかないが、それでも軽傷者の治療を任せられるのは大きい。
それに加えて、シュウイが救護所を制圧……ではなくて掌握してくれたため、イライラとギスギスが充満していた治療所に秩序――敢えて「平穏」とは言わない――が戻って来た。お蔭で治療がスムーズに進み、それが更に患者の不満を和らげるというポジティブなスパイラルが誕生する。
まぁ、一部の患者の中には、シュウイの治療を受ける事に及び腰で、結果として新たな緊張だかストレスだかを抱え込む者もいたようだが……そういった連中の心のケアは、吟遊詩人志望のモックが上手い事受け持ってくれた。
――そう。これが一つの発端であったのである。
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最初のうちこそ救護所の職員も気付かなかったが、シュウイが睨みを利かせているお蔭で治療がスムーズに進むようになり、気分にゆとりが生まれてくると……そこは彼らも医療者の端くれであるから、事態のおかしさに気付く事になる。
吟遊詩人を志望しているとは言っても、現状モックは「見習い」職にすら就いていない。ずぶの素人と大差無い筈である。なのに、どういう手品を使ったのか、緊張していた患者たちの気分を解きほぐすのに成功している……
後学のために教えてもらえないかとの申し出に、モックが快く明かしてくれた手品のタネとは……
「【咆吼】?」
「また、吟遊詩人には不似合いなスキルを……」
「……いや、【咆吼】スキルの本質は、声に魔力を乗せて届ける事だと聞いた憶えがある。それを考えれば……」
「あぁ……会話や説得による鎮静効果の上乗せは期待できるか」
成る程――と納得した一同であるが、もう一つのタネの方には戸惑わざるを得なかった。
「……『鼓吹の鈴』?」




