表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
611/892

第百二十章 ナンの町~THE DAY AFTER~ 4.救護所の「天使」(その2)

 怒らせると怖い医療担当者が、怒らせない限り適切な処置を施してくれるのだから、下手に文句など付けない方が良い――という事ぐらいは誰にでも解る。故に、不平不満を口にしたり態度に示すような者はいなくなり、シュウイ以外の担当者による治療もスムーズに進む。そうなれば、冒険者たちも文句の付け所が無くなる訳で、治療業務は円滑に進むようになった。

 その結果、業務の円滑化をもたらしたシュウイに対する治癒師たちの敬意と好感度は跳ね上がった。……患者側の心情は別として。



・・・・・・・・



 冒険者たちの内心と思惑(おもわく)はさて()いて、シュウイの持つ応急手当の知識は歌枕(かつらぎ)流の活殺術や保健の授業に由来するもので、その()(どころ)に特に後ろ暗いところは無い(・・)


 ただし――SRO(スロウ)内におけるシュウイの(しょ)(ぎょう)(かんが)みた場合、そうとは取らない者もいる訳で……



「――ヒッ!」



 シュウイを見てあからさまに(おび)えた様子の患者を見て、シュウイは僅かに眉根を寄せた。自分でも気付かぬうちに「(ほほ)()みの悪魔」が降臨していたらしく、シュウイを見て(ひる)む様子の患者は結構見かける(泣)が、目の前にいる男の(おび)え方は、それとは少し違うように見えるのだ。



(これは……ひょっとしてアレかな?)



 ――(もっと)もその理由については、シュウイにも心当たりが無くもない。

 トンの町で二度に(わた)ってやらかしたPvP(こうかいしょけい)、あの光景を目にした者に違い無い。プレイヤーを生きながら腑分(ふわ)けするかの如きあの行為を目撃した者であれば、人体構造に関するシュウイの知識の()(どころ)を、生体解剖によるものだと誤解した可能性だってありそうだ。


 こうまで(おび)えている理由は大方そんなところだろうと、原因については察しを付けたものの、そんな悪評がナンの町で広まると少し(まず)いかもしれぬ。いや、どこかどう(まず)いのか具体的に訊かれると困るのだが、何であれ悪評が広まって好い事は無い筈だ。

 なのでシュウイは(にこ)やかに微笑む(・・・)(!)と、



「あのさ――」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

「余計な事を口走らないでくれると嬉しいんだけど?」

「ひゃ、ひゃいっ!」



 〝お互い面倒な事になるのは避けたいよね?〟――などともの柔らかに微笑(すご)まれては、首を縦に振る以外の返答ができようか。


 ()くしてシュウイは患者――どうやらナンの町に居着いたプレイヤーのようだ――の理解と同意(笑)を得る事に成功し、当面の面倒を回避する事に成功したようだ。


 (もっと)もシュウイも内心では、



(今回はともかく、そのうち悪い噂が広まるのは避けられないかなぁ……)



 ――と、早々に諦めと見切りを付けており、更にはそれに留まらず、



(タクマやケインさんからも、王都から来た冒険者(NPC)が妙な探りを入れているっていう警告があったし……さっさとこの町を出るのが正解かなぁ……)



 早くも雲隠れの計画を練り始めていた。



 シュウイの目の前で小さくなっている患者(・・)については、もはや追及する気も失せたシュウイであったが……実は、(くだん)の男が(おび)えているのには、もう少し深い事情があった。


 その点に思い至らなかったのはシュウイの()(かつ)……とばかりは言えない事情も、今回に限ってみればあったのである。


 では――その事情とは?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ