第百十九章 ナンの町~「ワイルドフラワー」~ 5.届けものクエスト(その3)
容疑者扱いされたカナとセンは不本意顔だが、仲間たちはなおも納得できない表情である。二人が何かを手渡した直後にこの有様なのだ。「お届けもの」とやらが原因だとしか考えられないではないか。
「一体何を渡したのよ?」
「あら、他所様にお届けする品物を覗き見するなんて、そんな礼儀知らずな真似はしないわよ」
「つまり……カナも中身が何なのか知らない?」
「えぇ、そうね」
二人の責任追及が終わり、とりあえずは無罪放免となったところで、バタバタと足音を響かせながら、フランセスカとその上司氏が駆け戻って来る。
無礼を陳謝し恐縮しつつもフランセスカが事情を説明して言うには、
「……え? そんな素材だったんですか?」
「えぇ。これがあれば治癒師をもっと効率的に動かせそうなんです」
事情を掻い摘まんで説明すると、以下のようになる。
まず、ウィルマから託けられた「届けもの」というのは、他でもないセンがイビルドッグの巣から採集して来たものであった。本来は――と言うか、使役術師的には――使役獣の強化に使う素材なのだが、薬師や錬金術師がこれに一手間加える事で、面白い効果を持つ調薬原料に化けるのである。
既にテムジンの口から述べられたように、各属性魔法の【治癒】は、対象者の属性によっては相性が悪く効きにくい場合がある。パーティを組んでいるプレイヤーの場合は、その辺りの条件も考慮して治癒系の魔法を選ぶのが原則だが、それが難しい場合にはポーションで乗り切るのが定番である……通常時であれば。
――ところが現在のナンの町は、非常事態下に置かれている。
各パーティに属する治癒魔法持ちは、一時的に所属するパーティを離れ、後方で一括して治癒に当たっている。ポーションもまた同様で、町にあった在庫はほぼ全てが後方の救護所に纏められ、やはり一括して運用されている。救護活動の効率化を図る上では、妥当な判断であったろう。
ところが――その状況下で顕在化してきたのが、各人の属性と治癒魔法の属性の相性問題であった。患者と治癒魔法の相性が悪く、所定の効果が現れないケースが見られたのである。しかも悪い事に、耐性系のスキルを持つ冒険者にその傾向が強いという、平時では意識されなかった問題までもが浮かび上がってきたのである。
再述するが、普段ならパーティメンバーの治癒魔法やポーションに頼っていたため問題にはならなかったのだが、今は非常時。治癒系のスキルを持つ者は徴用され纏めて運用されており、ポーションも同じく払底している。この状況で、個々の冒険者の属性だの相性だのにまで気を配っているゆとりは無い。
結果として、少なからぬ人数の冒険者の回復に遅れが出始め、戦力がジリ貧になってきていた。それは前線で奮闘している者の負担の増大となって現れ、負傷して前線を離れる者が増えるという悪循環を生み出していた。
――ところが、である。
カナとセンがウィルマに託けられて持ち込んだ素材は、薬師や錬金術師がこれに一手間加える事で、
「……属性の相性を一時的に低減する……ですか?」
「そうなんです。元々は使役術師たちの間で、相性に問題のある魔獣を使役する時に使われているんですけど……今のようなケースでは――」
「――属性系の治癒魔法と患者の相性の悪さを、一時的に緩和できる。その結果、相性を無視して治癒魔法を行使できるようになり……」
「治癒士の配置と運用の効率化が図れます」
――という次第なのであった。
患者と治癒魔法の相性不和合による治療の遅延、それが引き起こす運用戦力の枯渇に危機感を覚えていたナンの町の司令部にとっては、まさに福音と思えただろう。
この、謂わばご都合主義的なまでのタイミングの良さが、この件に運営の――正確には管理AIの――意図が加わっているのではないかとの疑念を生み出す事になっていた。
ちなみに、ウィルマからこの素材を届けられたフランセスカであるが、実は彼女自身は使役職ではなく錬金術師の卵である。かなり癖のある素材ではあるが、加工次第では色々とピーキーな原料に化けるので、あれば何かの役に立つだろうとウィルマが送って寄越した……という事らしい。
なお余談であるが、素材が曲者過ぎて駆け出し錬金術師一人の手には余ると判断されたため、市井の薬師が応援に駆り出される事になったのであるが……
「ナンの町で薬師をやってるブランドだ。宜しくな」
「「「「「宜しく……」」」」」
トンの町在住の一級調薬師・バランドの実弟と、シュウイに先んじて知り合う事になったのは、これも奇遇と言うべきなのであろう。
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その日の夜遅く、シュウイたちを乗せた馬車がナンの町に到着した。




