第百十九章 ナンの町~「ワイルドフラワー」~ 3.届けものクエスト(その1)
救急用および町の復興用の資材を持ち込んでくれた上に、メンバー全員が魔法スキル持ちで治癒系の魔法も使えるとあって、「ワイルドフラワー」の面々はそのまま後方の支援指揮所に詰める事になった。
その事自体には異論は無いものの、カナとセンには別途済ませておきたい要件があった。何の事かと言えば、従魔術師の先達ウィルマから依頼された、届けものの件である。
イビルドッグの討伐とその塒に生えている特殊な茸の採集という、結構な難クエストをクリアした際に、先輩従魔術師のウィルマから頼まれる形で発生した届けものクエスト。その届け先がナンの町であったのだ。なのでさっさとその品を届けて、クエストをクリアしたいところなのだが……面倒な問題が一つだけ立ち開かっていた。
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「それで――お届け先はどちらなんですか?」
「あぁ、ナンの町にいるメイビーって娘なんだけど……あれ? メイビーの名前って何だったっけ?」
「「――はぃ?」」
いきなり頓珍漢な事を言い出したウィルマに、カナとセンの二人から疑惑の視線が降り注ぐ。
「いや……〝メイビー〟ってのはその娘の口癖でね、しょっちゅう口に出してるもんで、それが渾名になっちゃったのよ。今では誰も本名では呼ばない有様でね。だから……」
「……つい本名を忘れてしまったと」
「うん……」
さすがにウィルマも拙いと思ったのか、アガサにネイトまで呼び出して訊き質してみたのだが……
「あ? メイビーの名前って、メイビーじゃ……なかったっけか?」
「そう言われれば……何だか別の名前があったような気がするねぇ……」
……その二人とも綺麗さっぱり忘れている事が、改めて判明しただけであった。
思いがけない成り行きに当惑し狼狽するウィルマであったが、それをぼんやり眺めている風のカナとセンはと言えば、
(「……カナちゃん、これってこのクエストの仕様なのかな?」)
(「……仕様じゃなければ何だと言うの?」)
(「うん、ひょっとしてバグなのかな――って思って」)
珍問が出される度にバグを疑ってかかるのもどうかと思うが、少し前に【ファイアーボール】の二重起動などというバグの事をシュウイから聞いている身としては、そういう疑念が兆すのも無理からぬ事……のような気もする。
なので、問いを向けられたカナとしても、寸刻返答に困ったが、
(「どうかしら……さすがにバグというのは……いえ、かなりマイナーなクエストみたいだし……バグという可能性も無くは……ないのかしら?」)
センと二人して暫く首を捻る羽目になったが、
(「……とりあえずはバグと考えずに対応したらどうかしら。〝住民と交流して口癖の事を訊き出さないと、正しい相手に届けられない〟――という設定なのかもしれないし」)
(「あ、ここの運営さんが好きそうな問題だよね」)
――というところに落ち着いた。
そしてその一方で……三つの雁首を寄せ集めても「メイビー」の本名が出て来ないと悟ったウィルマの方はと言えば、
「ま、まぁ、そう急ぐもんじゃないし……口癖に気を付けてさえいれば、誰がそうなのか判るわよ……多分」
「「はぁ……」」
――と、そう結論付けるしか無かったのであった。
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(「……結局、届け先の人の名前、判らなかったね」)
(「クエストクリアのためにも届けるのは決定なんだけど……宛名が判らないんじゃどうしようも無いわね」)




