第百十八章 ナンの町防衛戦~その頃の彼らPART 2~ 4.「黙示録(アポカリプス)」~ナンの町防衛戦 開幕~
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
以上縷々述べてきたとおり、ケインたち「黙示録」は旧知のβパーティ、それも抜け駆けなどは考えない実力派に声をかけて計画に引き摺り込み、手分けしてボア狩り――【採血】のスキルは彼らにも取得してもらった――やら現地の地勢調査やらに従事してもらい、今日も今日とてその相談に励……もうとしていたところで、冒険者ギルドのギルドマスターから緊急依頼があったのだ。
「モンスターの襲撃とはなぁ……とんだクエが降って湧いたもんだ」
「トンの町以来の防衛クエストだろ? あの時きゃ俺らは参加できなかったが……」
「『黙示録』は参加できたんだよな?」
「防衛クエスト、ツータイトル入手かぁ」
どことなく緊迫感を欠いた期待感で盛り上がりかけていた彼らだが、ケインの表情が優れない事に気付いて口を閉ざす。何か気になる点があったのか?
「まぁ少し……こっちへ向かっているのがツインヘッドグリフォンだという点がな」
「うん?」
「ケインは見た事があるのか?」
ツインヘッドグリフォンについてはモンスターとしての情報が公開されているだけで、βテストの時にも実装されていなかった。故にプレイヤーたちも、敵として見た場合の実感に乏しいのだが……その例外がケインたち「黙示録」と、ここにはいないがシュウイなのであった。
「……そんなにデカいのかよ」
「あぁ。神話や伝説のグリフォンをイメージしていると裏切られるぞ。あれはもう『怪獣』と言うべきだな」
サイズの点だけで言えば、彼らが狙おうとしている死刑宣告者も負けてはいないが……細長い脚で身体を支えているだけの死刑宣告者とは重量感が違う。いざ敵として対峙した時の威圧感は凄まじいだろう。強さ硬さの点は言わずもがな。
そういった情報をケインから聞かされるに及んでは、曲者揃いの二パーティも憮然とした面持ちにならざるを得ない。
その〝曲者揃いの二パーティ〟とはどういった面々かと言うと――
・チーム「ラビット・パーティ」
可愛らしいパーティ名だが、その実は〝三月ウサギのお茶の会〟であって、好き勝手にいかれた真似をするプレイヤーの集まり。〝リアルでは決してできない事をする〟を合い言葉に、攻略も評判も何するものぞと、好奇心の赴くままに突っ走る。
人力飛行に執念を燃やす「ドック」や、モンスターと素手で渡り合う事に生き甲斐を見出す格闘狂などという、一癖も二癖もあるプレイヤーたちを抱えている。
別名〝ウサギさんチーム〟
・チーム「ハンティング・フォックス」
今でも時々間違えられるが、「狐狩り」ではない。〝温和しく狩られるつもりの無い狐〟とでもいうところか。
好き勝手に改造した銃を、思う存分ぶっ放したい――という、些か危ない願望を実現せんものとSROに参入したパーティ。元はサバゲーのチームであったらしい。メンバーには現職の警官や陸自隊員がいるという噂である。
ゲーム内に銃器は無いが、思い思いの形に改造した杖を構えて魔法攻撃をぶっ放す。最近では「ラビット・パーティ」の「ドック」と組んで、「人間大砲」の曲芸技開発に勤しんでいるという噂もチラホラ聞こえている。
別名〝キツネさんチーム〟
名うてのβプレイヤーが三チームも集まって動いているとなれば、他の攻略チームの注目を集めそうなものだが……実際にはそこまで関心を向けられなかったのも、一に懸かってこれら二チームの特異性にあった。攻略など知った事かとばかりに趣味と嗜好に邁進する連中の集まりとあって、攻略ともダンジョンとも無関係の別の何かを見つけたのだろうと見做されていたのである。……まぁ、実際のところもそうなのであるが。
余談はさて措き、上記二チームに「黙示録」を加えた三チームは、紛う事無き歴戦のβチームである。そんな彼らが事態の深刻さを憂慮しているその傍らで、事態の深刻さに気付いてもいない他のプレイヤーたちは、暢気に陽気に手前勝手な願望を吹き散らすばかり。各自勝手な動きを始めそうな気配である。
このままではナンの町防衛は覚束ないと感じたケインたちが、溜め息を吐いてプレイヤーを纏めようと立ち上がりかけたそのタイミングで……トリプルAのウェインが活を入れたのであった。




