第百十五章 その頃の彼ら 6.「マックス」(その2)
「メッセージが届いたという事は、システム的には自分たちは参加を期待されている……少なくとも、参加資格があると目されている事になる。ここで参加を辞退すると、何かペナルティが付くんじゃないか?」
「う~ん……」
「ここの運営の事を考えると、あり得なくはないような気も……」
「さすがに明確な形でのペナルティは無いかもしれないが……住民からの評価が落ちる可能性はあるよな」
住民との交流を推奨しているSROにおいては、地味に手痛い減点措置である。何より……
「ナンの町住民からの評価はともかく、リャンメンの村やアルファンの宿場からの好感度低下は痛いよな」
目下リャンメンの村に拠点を構えてコボルトとの接触を狙っている「マックス」にとって、村民からの好感度低下は何としても回避したい。
「あれやこれやを考えると、ナンの町へ向かった方が良いって事だな?」
「「「「「賛成!」」」」」
衆議一決、急遽ナンの町へ向かうという方針が決定される。とり急いでリャンメンの村に戻り、冒険者ギルドの出張所――宿の受付とも言う――に相談すれば、上手くすると馬車を借り出せるかもしれない。アルファンの宿場からはナンに向けて高速馬車が出ているので、思っているより早く着ける可能性だってある。
そんな想いで道を急いでいた「マックス」の面々であったが……
「兄ちゃん!」
――緊迫と安堵を含んだ呼び声に、その足を停める事になった。
振り返った一同の目に映ったのは、懸命に走ってきたらしく息を切らしている幼い少年。ただし、その姿は人のものではなく……
「……あれ? 君……」
「そうだ、お守りの時の……」
「うん、俺、チルクってんだ」
嘗て「コボルトのお守り」クエストの際に見かけた……と言うか、落とし物のお守りを届けた相手の、コボルトの少年であった。
コボルトとは言え子供が一人でこんな場所を走っているなど、あまり褒められた事ではないのではないか? いや、コボルトの習慣や価値観は知らないが。
「そうだけど……ナンの町が襲われたって聞いて……兄ちゃんたちの事が心配で……」
矢も楯も堪らず、単身コボルトの村を抜け出して来たらしい。ナンの町まで様子を見に行こうとしていたのだという。
健気と言えば健気であるし、自分たちの事を心配してくれたのだと思うと、ほっこりとしたものが湧いてくる。
が――それはそれとして、攻略チーム「マックス」としては、聞き流せない話が幾つかあった。
1.チルクは一体どうやって、ナンの町襲撃の情報を知ったのか?
これに対するチルクの答は、〝大人たちが話しているのを立ち聞きした〟――というものであった。では――
2.その大人たちはどうやってその情報を知ったのか?
これに対するチルクの答は、〝知らない〟――というものであった。
ただし会話の端々から察するに、どうもナンの町から警告があったようだ。危険だから不用意に近寄るなという。そう言えばカナたちからの情報に、コボルトやホビンが〝モンスターの素材を持ち込む事はあるみたいだけど、面倒を嫌ったのか、冒険者登録はしていないそうなのよね〟――というのがあったではないか。なら、コボルトが冒険者ギルドと誼を通じていてもおかしくはない。
ただ――ここで少し気になるのは、「ナンの町襲撃さる」の情報が、ほとんどタイムラグ無しで伝わっている事だろう。住人たちの間にも、プレイヤーチャットに類するような通信技術があるのかもしれない。これは心の隅にでも留めて置いた方が良いだろう。そして――
3.チルクはどうやって、ここからナンの町に駆け付けるつもりだったのか?
リャンメン村の外れからナンの町へとなると、馬車を飛ばしても一日はかかる。コボルトの身体能力が優れているとは言っても、チルクはまだ子供。馬車を上回る速度で走り続けられるとは思えない。まぁ、子供の事でそこまで気が回らなかっただけという可能性もあるが……?
「え、えぇと……」
視線を泳がせて口籠もる様子を見て、これは何か大っぴらにできない移動手段があるのでは――と、察する「マックス」。そして、リーダーのサントが口に出した台詞は――




