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第百十四章 ナンの町災難篇~防衛隊決起~ 1.寝耳に水の襲撃

 その日、早朝のナンの町では――



「三頭連れのツインヘッドグリフォンが、(えら)い剣幕でこっちへ向かってる!?」



 見張りからもたらされた凶報に思わず驚愕の声を上げたが、それでも恐慌に陥らなかったのは、冒険者ギルドのギルドマスターとしての経験と(きょう)()の故だろうか。ともあれ、彼は数瞬の思案の後に、矢継ぎ早に指示を飛ばした。



「領主館と領兵本部に緊急連絡! 町の連中に一時避難の勧告を出せ! 冒険者(ゴロツキ)どもにも伝達! 手の空いてるやつには道の途中にバリケードを築かせろ! ツインヘッドグリフォン相手じゃ足止めにもならんだろうが、少しでも時間を稼げりゃ儲けもんだ! 急げ!」

「解りました! 他所(よそ)のギルドにも支援を要請しますか?」



 部下からの問いに一瞬だけ考え込む素振りを見せたギルドマスターであったが、その決断は素早かった。



「いや、間に合わん。今の時点では連絡はイーファンとアルファンの宿場だけでいい。他にいるやつらがイーファンとアルファンに押し寄せて、そっちに手が取られてここへの増援手配が割りを喰っちゃ元も子も無ぇ。他の町への連絡は、イーファンとアルファンのギルドの判断に任す」



 トンの町やシアの町から増援を出しても、それが着く頃にはナンの町は廃墟になっている可能性が高い。それに、イーファンとアルファンの町の冒険者ギルドは、それほど規模が大きくない。他所(よそ)からやって来た増援部隊との連絡や対応に手を取られれば、肝心のナンの町への応援が割りを喰うのは避けられない。本末転倒も(はなは)だしいではないか。



「――解りました!」



 ギルドマスターの判断を是としたらしき職員も、了承の声を上げて走り去る。今は一刻も早く対処に廻るべきだ。


 ――ともあれこういった次第から、ナンの町モンスターに襲撃さるの凶報と、そして「異邦人(プレイヤー)」への緊急クエスト開始の告知は、ナンの町およびイーファンとアルファンのみに流れる事になったのであった。



・・・・・・・・



 さて――ギルドからの急報、それも大凶報を受け取ったナンの町は騒然となった。


 戦えない者は手荷物だけを持って町外れの領主館――緊急時の避難場所を兼ねている――に移動し、一部の者はイーファンとアルファンの宿場町を目指した。

 領兵の多くは、今や領民を守る最終防衛拠点となった領主館の周りに防衛陣を()き、一部の者はナンの町へと助っ人に馳せ参じた。


 役立たずの新米を除いた冒険者たちもナンの町に立て籠もる構えを見せたが、



「おぃ……大丈夫なのか……?」

「大丈夫なわきゃ無ぇだろうが。相手はツインヘッドグリフォン、それもSランクの個体が三頭だって話だぞ」

「だが、逃げる訳にもいかん。少しでも俺たちが踏ん張って、ここで時間を稼ぐしか無い」



 やはり三頭ものツインヘッドグリフォン――それも見張りの見立てではSランク――による襲撃が間近に迫っているとあって、腰の引けた様子は隠しようが無い。



 一方で、ナンの町にいた「異邦人(プレイヤー)」たちはというと……



「ツインヘッドグリフォンの襲撃かよ……トンの町の防衛クエストにゃ参加できなかったが、今度はそれ以上の大物だな」

「腕が鳴る……って言いたいが、まず無理だよな」

「あぁ、ここは経験値狙いでいくしかないだろう」

「おぃ待て。経験値狙いは構わんが、無駄な特攻なんかするなよ? ナンの町を守るのが先決だろうが」

「あぁ? そういう面倒なのは、地元の連中(NPC)に任しときゃいいだろうが」

「そうそう。俺たちゃゲームを楽しめばいいんだって」

「馬っ鹿。ナンの町がぶっ壊れたら、俺たちも拠点を無くす事になるんだぞ。あの(しょう)(わる)な運営が、クエが終わったからってナンの町を元に戻してくれる……なんて考えられるか?」

「そりゃ……確かに……」

「てぇと……経験値よりもクエストの成功を狙うべきなのか?」

「メッセージも『拠点防衛クエスト「ナンの町防衛戦~ツインヘッドグリフォン撃退作戦」』ってなってるしなぁ……」

SRO(スロウ)のキモは住民(NPC)との交流なんだろ? なら、町の防衛と住民(NPC)の救出が優先されるんじゃないのか?」

「えぇ~? 面倒臭ぇな。ドカンとぶちかましてやりゃいいじゃねぇか」

「その場合、経験値は貰えんかもしれんぞ?」

「そうそう。住民を危険に巻き込んだって事で、逆に減点されたりして」

「何だぁ? そういうのってアリなのかよ?」

「何しろSRO(スロウ)だからなぁ……」

「ま、逆に言えば住民を危険に曝さないよう配慮すれば、ぶちかましもアリって事じゃないのか?」

「これは……先に各プレイヤーの希望を聞いて、チームを振り分けた方が良いかもしれんな……」



 ――と、こちらはこちらで意見が(まと)まっていない様子である。


 これで組織だった防衛などできるのか。ギルドマスターが苦い懸念を抱き始めたその時、



「おたつくんじゃねぇっ!」



 ――年季の入った低い声が、ギルドハウスを支配した。

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