第百十三章 ナンの町災難篇~前段~ 2.軽率者たちの(希望的)観測(その1)
「おい……ちょっとこれ、無理ゲーっぽくないか?」
「お、おぉ……ちっと厄介そうなモンスだな」
意気揚々とツインヘッドグリフォンが居座ってる現場にやって来たのはいいが、実際の群れを見て腰が引けている軽率者の面々。その眼前に悠然とした巨体を晒しているのは、予てから問題となっているツインヘッドグリフォンの群れであった。
頭が二つあるせいなのか、通常型のグリフォンよりも首が長く、その結果として頭部の自由度も高いようだ。そして、なによりかにより身体がデカい。
通常のグリフォンなら人を乗せて飛び廻れる程度だが、このツインヘッドグリフォンは小さめのドラゴンくらいのサイズはある。こんなのが群れて突っ込んで来た日には、ナンの町など簡単に陥落するだろう。
……成る程、ナンの町の冒険者ギルドが慎重になる訳である。
尤も、そんな可能性など夢にも思い至らない者もいるようだが……彼らは彼らでおかしな事に気付いたようだ。
「おぃ……何かおかしくねぇか? ダンジョンっぽい場所が見当たらねぇぞ?」
「そうなんだよなぁ……」
彼らがここにやって来たのは、〝強力なモンスターがいるからには、そこにダンジョンがあるに違い無い〟という根拠の無い思い付きに拠るものであった。
言い換えるなら、この場にダンジョンが無いとなれば、ツインヘッドグリフォンそれ自体に用は無い……と言ってしまうのも些かアレだが、モチベーションが低下するのも事実である。
「抑あの図体じゃ、ダンジョンに出入りするのは無理があるんじゃないか?」
「ダンジョンから出て来るモンスを餌にしてるとか……?」
彼らはどうあってもツインヘッドグリフォンとダンジョンを結び付けたい――でなければ、こんなところまで態々やって来た自分たちが馬鹿みたいではないか――ようだが……実際の話として、ここにはダンジョンなどありはしない。
では、なぜこんな場所にツインヘッドグリフォンの、しかも群れなどという場違いモンスターが配置されているのかと言うと……単なる運営側の都合としか言いようが無い。
要するに――運営の都合としては、早い時点でナンの町から直接王都を目指されても困るというので、王都直通の街道を封鎖するためにツインヘッドグリフォンを配置した……というのが事の次第なのであった。
その時点では、〝ツインヘッドグリフォンが街道筋に居座っている理由〟など後回しにされたし、後になればなったで〝理由付けは誰かがやってくれてるだろう〟との思い込み――或いは願望的幻想――から、肝心の理由は実装されないままに終わっていた。運営管理室も後にその事に気付いたが、理由ぐらい後付けでどうにでもなるだろうとの判断から、そのまま放置していた……という訳なのであった。
ただ、その放置が彼ら軽率者をして誤解に走らせたのは事実であり、その結果、この一件自体が運営の仕組んだ悪辣な罠であるとの濡れ衣を着せられる羽目になるのであるが……それはもう少し先の話になる。
今は彼ら四人組の言動に注意を向けるとしよう。
「……なぁ、あのツインヘッドグリフォンだけどな……デカい図体でダンジョンの入口を隠してる……って事は無いか?」
「あ?」
「何で入口を隠す必要があるんだよ?」
「そりゃ……例えば、モンスターが溢れそうなのを蓋してる……とか?」
「あ?」
「――スタンピードが起きるってのか!?」




