第十九章 トンの町 2.ナントの道具屋
「いやいや……今日もまた自重しない品揃えで攻めてきたね……」
シュウイが持ち込んだドロップ品の山を前にして、呆れたような諦めたような表情を浮かべつつ、店主の獣人ナントは乾いた声でそう言った。無理もない。前回も結構な珍品を持ち込んできたが――プレイリーウルフのサナダムシなんてアイテムがあるなど想像もしなかった――今回はそれに輪をかけて酷い――凄いではない――アイテムが揃っている。
まず、モンスターの種類だけで十種類あるのはまだいいとしても、ドロップ品が毛皮や爪、牙、魔石なんていう月並みでないのはどういう事か。狩るのが難しいとはいえハイディフォックスの毛皮くらいならまだ常識的と言えるが、スラストボアの脊髄液だのファイアリザードの結石だの……ワイルドボアのたん瘤だとかモノコーンベアの親知らずに至っては、もはや運営の悪ふざけとしか思えない。そんな代物を山のように持ち込む客も客だ。
しばらく呆けたように珍素材を眺めていると、きまり悪げな表情でシュウイが訊ねてきた。
「やっぱり、買い取りは無理ですか?」
その声に我に返ったナントは、慌てたように応えを返す。
「あぁ、いや、そんな事はないよ? ただ、普通に店頭売りすると、間違いなく大騒ぎになるねぇ」
「それじゃ、買い取って戴いてもデッドストックになるだけじゃ……」
「いやいや、僕はこれでもβテストプレイヤーだからね。それなりの伝手というものがあるのさ」
ナントの言うところによれば、βテストプレイヤーは特典として装備や素材、資金などの一部を正式版のSROに引き継ぐ事が可能なのだという。ナントはその特典をもって、β版で稼いだ資金と人脈の一部を引き継ぐ事に成功したのだという。
「だから、まだ解放されてない町や王都にも知人がいてね、彼らに連絡を取りさえすれば、物は捌けるんだよ。現にサナダムシは売れたしね」
「はぁ……βテストプレイヤーともなると、凄い伝手を持ってるんですねぇ……」
シュウイ君は感心したような声を上げているが、正直言って値付けの方は全く自信がない。たん瘤や親知らずの値段なんか判るものか。サナダムシの時だって、王都の錬金術師に話を持ち込んだら向こうがえらく興奮して高値を付けてきたので、そのまま言い値で売っ払ったのだ。破格の安値で手に入ったと向こうはえらく感謝していたが……。
「……悪いけどシュウイ君、これだけの珍素材の山となると、僕も正しく値付けができるかどうか自信が無い……いや、はっきり言ってできない。なので、知人たちに連絡を取って、向こうの言い値を参考に値を付けようと思うんだ。だから、支払いはしばらく待ってもらえるかい? なんだったら前金を渡しておくし」
うん。別に急ぐ必要はないからね。ゆっくりと値を付けてもらおう。
「僕は構いませんよ。でも、さすが王都ではこんなものが売れるんですね~」
ワイルドボアのたん瘤とか、何に使うんだろうね。
「いやぁ、この町でも話を持って行く相手を選べば売れると思うよ? 実際に話を持って行くつもりだし」
「え? 初心者にどうこうできる素材じゃないとおもうんですけど」
「いや、アーツを習得する方法の一つとして、住民に弟子入りするっていうのがあったろう? プレイヤーには無理でも、住民の先達なら取り扱えるというわけさ」
「あ~、そういう事なんですね」
勉強になるなぁ。




