第百十二章 トンの町 10.冒険者ギルド(その1)
想定外のイベント――と言うか、アクシデント――があって、中庭で思ったより時間を取られたシュウイ、悪い悪いと思いながら冒険者ギルドの建物に舞い戻ってみると、
「あ、テムジンさん。いらしてたんですか」
置き去りにしていたモックとエンジュの新人二人と和やかに談笑していたのは、昨日ぶりの鍛冶師のテムジンであった。
「お早うシュウイ君」
「お早うございます。今日は宜しくお願いしますね」
「「お、お願いします」」
シュウイがペコリと頭を下げるのに合わせて、モックとエンジュの二人も慌てたように頭を下げる。その様子にテムジンも苦笑するしか無い。では、シュウイたちが何を頼んでいるのかというと、要は訓練教官への引き合わせである。
ここギルドハウスの奥にある訓練施設は、ギルドに登録している冒険者なら自由に使う事ができるが、前述したとおりプレイヤーはあまり利用していない。シュウイは以前にも利用した事があるのだが、その時に【奪刀術EX】などというバグ技みたいなものを取得してしまって以来、何となく気が引けたような感じになって再訪していなかった。
そんなシュウイと違ってテムジンは、念願であった弓術の稽古に間を置かず通っていた事で、弓術以外の訓練教官ともすっかり顔馴染みになっていた。そこでシュウイたちは、改めてテムジンに教官との顔繋ぎを依頼していたという次第なのであった、
昨日までならテムジンも、工房の周りを取り巻いた新人プレイヤーの群れを突破してギルドに向かう事を躊躇ったかもしれない。しかし、トンの町で「歩く地雷原」の令名高いシュウイが工房を訪れたとあって、命を惜しんだプレイヤーたちは蜘蛛の子を散らすように消え去っていた。
そんなシュウイの霊験あらたかぶりに驚き呆れはしたが、ともかくこれ幸いとばかりに例も兼ねてギルドにやって来たという次第なのであった。
「では、行くとするかね?」
「はい、そうしたいんですけど……あの、何だか少しざわついてません?」
ズートの苗改めズートレントを連れて行くに当たって、シュウイはギルド職員のお姉さんたちに一言断っておこうかと思ったのだが、そんな話ができるような感じではないのが少し気になっていた。何か異変でもあったのだろうか。
「ふむ……それは自分も気が付いたが……しかし、緊急事態が発生したようにも見えないのでね」
「あれ? そうなんですか?」
目の前の事態は「緊急事態」ではないのかと、もの問いたげなシュウイに向かって、
「まず、これが本当に緊急事態なら、とっくに招集がかかってなければおかしい。イベントであればメッセージが届く筈だしね」
「あ……そうか、そうですね」
「職員はバタバタしているが、ギルドハウスからどこかへ出て行く者はほとんどいない。何か緊急事態が発生したのなら、町のあちこちに連絡なり何なりを走らせる筈だ」
「ははぁ……」
現に、対オークキング防衛戦の時にはそうだった――と言われると、そう言われればそうだったかなという気もする。シュウイは終始裏方に廻っていたので記憶が曖昧だが、実例があるというなら間違い無さそうである。
「つまり……これが何かのイベントの前触れであったとしても、現状はそこまで切迫していないと」
「自分にはそう思える」
なら、ここでこうして時間を潰していても仕方がない。当初の予定どおり訓練場に向かうか――と歩を進めかけたところで、
「おぅっ! 手前ら! ギルドからの緊急依頼だ! ナンの町がモンスターの被害を受けてぶっ潰れちまった。再建のために向かってもらうぜ!」
《緊急クエスト「ナントの町を再建せよ!」が開始されました。冒険者ギルドからの依頼を受けますか? Y/N》
「「「「――え?」」」」
やっとここまで辿り着きました。長かった……




