第百十一章 その頃の彼ら 3.「ワイルドフラワー」(その1)
同じ頃、徒歩でナンの町を目指していた「ワイルドフラワー」では、
「また……微妙なタイミングで微妙な情報を送ってくれたものね……」
シュウイから送られて来たメールに目を通したカナが、タクマ同様に難しい顔で考え込んでいた。
「でもカナちゃん。これってあたしたちにも重要な事じゃないかな」
「そうそう。特にこの辺りとか」
脇からメールを覗き込んでいたメンバーたちが、交々に指し示した先には――
・紫水晶……INT上昇、酩酊・混乱耐性付与
・青玉……INT上昇、魅了耐性付与
・黒瑪瑙……INT・AGI上昇、魔除け
・トルコ石……行動の成功率上昇。旅のお守り。魔除け
・石榴石……VIT上昇、打撃・斬撃耐性付与、行動の成功率上昇
・月長石……【暗視】スキルおよび夜間の察知系スキルにプラスの補正。女性プレーヤーに対しては特に補正効果が高い(ネカマも可)
カナたちのパーティ「ワイルドフラワー」は、魔法職の少女たちからなる五人編成のパーティである。魔法職であるがゆえに、魔法の巧拙に関わるINT値を上昇させるという効果は無視できないものであった。そしてまた、彼女たちの重要な金策手段が魔道具の作成と販売である事に鑑みれば、行動の成功率を上げる効果――既にエンジュが確認済み――というトルコ石と石榴石の効果もまた看過できないものであった。女性プレイヤーを優遇するという月長石については言わずもがなである。
「ん。その他にこっちも大事だと思う」
そう言ってミモザが指し示したのは――
・青金石(別名 瑠璃)……LUC上昇、破邪
・黄水晶……LUC上昇
・紅玉髄……LUC上昇。威圧・混乱耐性付与
「LUC上昇かぁ……」
「確かにそっちも大事だと思うけど……」
討伐は彼女たちの専門ではないが、必要な素材を得るためにモンスターを狩る事はある。ドロップ品の質が向上するというのなら、これも見逃すには惜しいのではないか。現にシュウイという実例――LUC上昇系のスキルと称号の保持者――がいるのだし。
漠然とそんな事を考えていたカナであったが、ミモザの狙いはそれとは別のところにあったらしい。
「ん。LUCが高いと、良い召喚獣を引き当てられるかもしれない」
この台詞を聞いて顔色を変えたのが、未だ使役獣を得ていないエリンとサフランの二人である。エリンは【従魔術】、サフランはミモザと同じ【召喚術】の取得者であった。良い使役獣と縁が結べるというのなら、これは断じて放置できない情報である。
「ちょっと落ち着いて、三人とも。今は届けものクエストの最中なんだから……」
――と言いかけたカナであったが、厳密にはそのクエストを受けているのは、既に使役獣との契約を済ませた自分とセンの二人だけ。対して、LUC上昇のパワーストーンに色気を出しているのは、使役獣と未契約の三人である。こんなところで妙な溝を作りたくないカナとしては、言葉も尻窄みにならざるを得ない。
「でもさカナ、その〝届けもの〟って、別に急ぐ必要は無いんでしょ?」
「まぁ、それはそうだけど……」
確かに急げとは言われなかったし、ここは三人に譲るべきではないのか?
――などと思慮していたカナであったが、そういう空気を一切読まないセンが、ここで爆弾を投下する。
「ねぇねぇカナちゃん、ここに書いてある〝NPCからの好感度上昇〟って、使役獣とかも対象なのかな?」
「「「「――!」」」」




