第百十章 トンの町 13.テムジン工房~【聖魔法】談義~(その3)
「【聖魔法】というのは面白い魔法でね、アンデッド以外に対する攻撃性はほぼ無いが、その反面で全ての属性に干渉できるという特徴を持っている。つまり、対象者の属性が何であれ、等しく治療できるという訳だ」
「「「「「ははぁ」」」」」
「それが関係しているのか、【聖魔法】の魔力は『自己』の魔力として認識されない。『非自己』の魔力として認識される」
シュウイは思わず身を乗り出しそうになるが、ここで目立つのは拙いとの思いから、どうにかその衝動を抑える事に成功する。
そしてシュウイの関心と興味は、師匠に対して遠慮の無い新弟子たちが、上手い感じに肩代わりしてくれた。
「……どういう事です?」
「『自己』とか『非自己』って……どっかで聞いたような気が……」
「免疫の話ですよね? ……魔法にもアナフィラキシー・ショックとか、あるんですか?」
ここで「自己」と「非自己」、「アナフィラキシー」に関する知識を持っていたらしい中学生が、高校生を差し置いて話に参加する。属性魔法に適不適があるのは知っているが、アレルギーやアナフィラキシーまで存在するとなると、これは軽々に看過できない大問題である。
「いや、今までのところそういう報告は上げられていない」
「「「「「はぁ……」」」」」
ならば心配は杞憂であったか――と、胸を撫で下ろしかけた一同に、テムジンが冷や水を浴びせかける。
「ただ……運営はこの件について、否定も肯定もしていない」
「「「「「はぁ……」」」」」
……という事は、アレルギーかアナフィラキシーが存在するという事ではないのか?
微妙な感じに押し黙った一同であったが、
「しかしその一方で、聖魔法に微妙な付加価値を付けて、取捨選択を難しくしようという運営の謀略――という説も出されていて、こちらもそれなり以上の説得力がある」
「「「「「ははぁ」」」」」
確かに……あの運営の事を考えると、こちらも信憑性の高い解釈だ。アナフィラキシーの件については、差し当たって過度に心配する必要は無いにせよ、頭の隅に置いておいた方がいいだろう。
些か脇道的な話が多かったとは言え、シュウイは【聖魔法】の【治癒】について、新たな知見を得る事ができた。自分でも【聖魔法】を持っている身としては、今回得られた情報と示唆は、ありがたいものであったのである。
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――ここからは余談と言うか後日談になる。
後日テムジンが「宝石」付きの道具について、顔見知りの地元鍛冶師に話を振ったところ、
「ほぅ、自力でそれを探り出すたぁ、中々見上げたもんだ」
――という答が、面白そうな表情とともに返ってきた。
〝道具に頼るなど言語道断!〟――という答が返ってくるのではないかと思っていたテムジンにとっては意外であったが、鍛冶師の親方の言うところでは、
「何、俺たちだってここ一番って時にゃ、特別誂えの道具を使う。鍛冶師としちゃあ当たり前のこった。
「ただ、若ぇやつらが道具に頼る癖を付けると、先々碌な事にならねぇから、普段は禁じているだけよ。
「一人前の鍛冶師なら、知っていたところで問題は無ぇ。お前さんにもそろそろ教えてやろうと思ってたんだが……先を越されちまったな」
そう言って笑う親方の顔からは、何の底意も感じられなかった。




