第百十章 トンの町 11.テムジン工房~【聖魔法】談義~(その1)
当初はノジュールの外被から稀少金属を抽出し、あわよくば鋼への添加まで済ませようなどと目論んでいたシュウイとテムジンであったが、思いがけない――しかし有益な――寄り道が発生した事で、その予定は早々に覆っていた。
既に時間は正午を大幅に過ぎており、新人四人も一仕事終えた気分になっている。今更新たな仕事に取りかかれというのも無粋だろう。
――という事で、テムジンは作業道具を片付けて、簡単な慰労会を催す事にした。実際、それに見合うだけの仕事を成し遂げた訳だし、ここで労いの場を設ける事で、隊員の士気を維持する事ができる。
それに、こういう場の方がリラックスして話題が転がるから、案外にヒントになるネタが出て来るかもしれないではないか。
リアルでの職業柄なのか、こういうところには気配りの働くテムジンであった。
そうして――この時のテムジンの気配りは、彼の予想とは些か違った形で、盟友であるシュウイに利をもたらす事になったのである。
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「……そう言えば、あの性悪ダンジョンには本っ当に参ったよな」
何が切っ掛けであったのか、雑談の中でそう零したのは$p①Gで、これに直ぐに応じたのが・払であった。
「あぁ、確かに最初から最後まで性悪だったが……お前が言うのはどの点だよ?」
「そりゃ、何たってあのトラップだよ。なぜか俺たち二人に集中してたろ?」
「まぁな」
自分たちを生贄に捧げてトラップの漢解除をさせたのではないか――と、今も疑う新弟子二人が師匠と先輩にジト目を向けるが、容疑者の二人は涼しい顔である。あれは単なる偶然です。
その表情を見て訴追を諦めた新弟子二人は、少し前向きな方へと話の舵を切った。
「――でさ、あぁいう時にお守りがあったら、少しは違ったんじゃないかと思う訳よ」
「お守りって……魔除けとかか?」
魔除けの護符はトラップ回避に役立つのだろうかと、疑わしげな・払であったが、
「いや、そっちじゃなくってさ、幸運値上昇とか回復力上昇とか」
「あぁ、そう言やあったな、そういう効果」
再び目線を挙げた新弟子二人に、今度は不毛な言いがかり――註.テムジンとシュウイ視点――ではなく純粋な疑問だと見て取った先達二人が、交々に答を口にする。
「回復力上昇は孔雀石の効果だな。今回は出なかったが」
「今回出たやつの中だと、青金石――別名 瑠璃――と黄水晶、紅玉髄に、幸運値上昇の効果があったっけね。……どれだけ上がるのかは知らないけど」
〝加工難度の高い「宝石」ほどその効果も高い〟というテムジンの仮説に従うなら、今回得られた青金石・黄水晶・紅玉髄のような「貴石」では、その効果もそれなりなのではないか――と、暗に示唆するシュウイ。少なくとも幸運値の上昇だけで、陸続と現れるトラップを全て捌くというのは難しくないか?
「そりゃ、そうかもしんないですけど」
「……狙うならやっぱり、〝回復力上昇〟の方ですかね?」
「それか――もっと直接にポーションとか……或いは【治癒】のスキルとかじゃない?」
自分の魔力を認識しない【魔力察知】の訓練に悩むシュウイ。打開の一手として幼馴染みたちから教えられたのが、【魔力察知】で認識できるという【聖魔法】の【治癒】であった。ここで話がそっちの方に転がったのは望外の好機――とばかりに、シュウイが話題の誘導を試みる。
会話の中の僅かな間から、何か事情がありそうだと察したテムジンも、敢えてその誘導に従う事にする。




