第百十章 トンの町 9.テムジン工房~ハンマーアップデート事情~
さてそうなると、どの原石から先に手を着けるべきか。
「工具に付ける事を考えるなら、ここはやはり石榴石かトルコ石を優先すべきだろう」
石榴石とトルコ石が持つ、行動の成功率上昇の効果。これは是非とも確保しておきたい。
「えぇと……はっきりと鑑定できてはいないんですけど……成功率上昇の効果は、石榴石の方が大きいような気がします。トルコ石の方はそこまで大きくないと言うか……」
「ふむ……加工難度の高い石榴石の方が、加工した後のリターンも大きい……解り易い話だな」
そうすると、ここは少々無理をしても……無理をさせても、効果の大きい石榴石に手を着け(させ)るべきか? エンジュの顔色が悪くなった事など気にも留めずにそう口にするシュウイであったが、
「いや、ここは安全策を採って、トルコ石から先に加工するべきだろう。そうやって強化した工具を使って」
「成る程……その次に石榴石を加工する訳ですね」
どのみち加工はさせられるのだと知ってエンジュが力無く項垂れているが、時間的な猶予を貰えただけでも儲けものであろう。況して二回目からは、トルコ石の力でブーストした工具の効果も期待できるのだ。
「ではエンジュ君、君が持っている宝石加工用の工具というのを見せてくれたまえ」
「はい……」
観念した様子で初心者用加工キットを取り出したエンジュであったが、それを見たテムジンとシュウイの表情が難しいものになった。
「ハンマーの柄は木製だからいいとして……」
「鏨と……これ、彫刻刀って言うより鉄針ですね」
「罫描き針というのにも似ているな」
どちらも総鉄製であり、簡単に石など組み込めそうにない。
そこまでの強度が要求されない鉄針の方は、工夫すれば柄の後ろに付ける事ができるかもしれないが……
「最初からそれ用のものを誂えた方が良いだろう。幸いここは鍛冶工房だ。このこらいの工具なら直ぐにでも作れる」
テムジンの言葉に新弟子二人が立ち上がりかけたが、テムジンは笑ってそれを押し止める。まだ肝心の石の準備すらできていないのに、少しばかり気が早過ぎるだろう。
「とりあえずは、ハンマーの柄に付けられそうなトルコ石の加工からお願いできるかな? あぁ、簡単な研磨だけでいい。最初は効果の検証から始めないとだからね」
「あ、はい」
事ここに至って泣きを入れても始まらないと肚を括ったのか、エンジュもテキパキと作業にかかる。見習い以前とは言っても、何度も工具を手に取ってのイメージトレーニングは重ねてきたのだろう。戸惑いも手間取りも無い動きであった。
大きさと形を考慮して一つの原石を選び、丁寧に研磨を進めていく。取得したばかりの【研磨】スキルが大活躍である。
そうやって研磨と成形を施された石を、シュウイがハンマーの柄に嵌め込んでいく。こちらは【日用大工】の出番であるが、地味に【左右】が良い仕事をして、左右両利きになっているのも好都合であった。
ちなみに、石を柄に固定するに当たっては、工房にある接着剤を――それこそ膠のようなものまで――試したのだが、意外や一番具合が好かったのがマハラの粘球であった事には、一同あんぐりと口を開けざるを得なかった。独り当のマハラだけは、〝ふんす〟という感じにドヤっていたが。
ともあれ、そうやってでき上がったハンマーをシュウイが【目利き】したところ、
「……当たりです。〝行動補正効果・微〟が付与されています」




