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第百十章 トンの町 2.テムジン工房~分け前事案~

 辺りを薙ぎ払うが如きシュウイの威光によって、何の支障も無くテムジン工房へと到着したシュウイ一行であったが、素材の分配という段になって一悶(ひともん)(ちゃく)が持ち上がった。

 エンジュの修行用にと宝石の原石を希望したシュウイが、その対価としてモンスターのドロップ品の提供を申し出たのだが、テムジンチームの新弟子二人がこれを過分であるとして、受け取りを拒否したのである。

 何しろ「フォンの切り通し」でのモンスターラッシュは、そのほとんどをシュウイが討伐しており、新弟子二人は何もせずにお(こぼ)れに(あずか)ったようなものである。これ以上に何かを貰うなど、分不相応にも程があるではないか。


 それに、(そもそも)問題の原石自体が、シュウイの思っているほど高価ではない。

 確かに「宝石」は価値あるものだが、それは母岩から取り出してカットと研磨を施し、更にアクセサリーとして加工された場合である。カットも研磨も済ませていないただの原石に、そこまでの金銭的価値は無い。


 加えて、原石の需要自体がそこまで高くない。

 何しろ、宝石職人(ジュエラー)は第二陣で解放された新職業。現時点でその職に就いている者は数える程。いきおい、卸し先はNPCの宝石職人(ジュエラー)となるのだが、トンの町には一人もいない。つまり原石を現金化するには、それを運ぶコストがかかる。しかも前述の理由によって、原石自体の価値がそこまで高くない。原石の種類によってはそこそこ高い評価額がつくのだが、それを現金化するのが難しいのであれば、これは不良在庫にしかならない。下手をすれば原価割れしかねないとあって、冒険者ギルドも買い取りに及び腰である。どうかすると鉄鉱石の方が金になるくらいだ。


 そんなものの対価として、確実に現金化できるドロップ品では貰い過ぎである――というのが新弟子二人の言い分であり、それなりに筋が通ったものであった。


 判断に困ったシュウイがテムジンに裁可を丸投げし、テムジンが概ね妥当と判断した分だけの素材を、新弟子二人に引き渡す事で折り合いが付いた。


 なお、この件の当事者となったエンジュであるが、自分の修行用の原石の代価をシュウイが肩代わりした事に(いた)く恐縮していたが、シュウイにしてみれば(むし)ろ逆であった。(かえり)みれば、エンジュの指導を請け負っていたからこそ、稀少金属(レアメタル)だのチュートリアルダンジョンだのに巡り会えたのである。言うなれば、対価は既に先払いしてもらっているようなもので、エンジュが気に病む必要は無い……というのがシュウイのスタンスなのであった。


 ……とまぁ現状は、こんな感じに収穫物の分配が終わったところである。


 シュウイとテムジンの本音としては、()ぐにでも特殊鋼の製造に取りかかりたいのだが、そうすると残りの四人、()けてもエンジュとモックが蚊帳(かや)の外に置かれる事になる。シュウイはともかく良識ある社会人のテムジンとしては、それをよしとする事はできない。

 それに現在この場所には、宝石加工の専門家と金属加工の専門家が揃っているのだ。この機を捉えて双方の知識を()り合わせておくのは、先々の事を考えると有益だろう。

 何しろ特殊鋼というのは、これまでのところSRO(スロウ)では明らかにされていない概念なのだ。それも、恐らくはあの腹黒運営が仕込んだ隠し要素である。どこにどんなヒントやフラグが――それも何気無い感じでしれっと――仕込んであるか知れたものではない。


 悪辣な運営のトラップにかからないためにも、この場で一度はお互いの知見を突き合わせておくべき――というテムジンの提案は、他の面々にも妥当なものとして受け容れられた。



「けど師匠、例えば宝石と金属って、何か関わりがあるんですか?」

「アクセサリーの台座に使う事ぐらいしか思い付かないんですけど……」



 自分たち鍛冶師には縁が無い、故に提供すべき情報も無いのではないか。そう言いたげな新弟子二人であったが、



「確かに『金属』という形では宝石との関わりは薄いな。だが、『武器』としてだとそうでもない」



 意味ありげな目付きで一同を見回すテムジン。



「刀剣の柄飾りに宝石を嵌め込む事で、それを一種の呪物(じゅぶつ)として使える場合があるのだよ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔剣の話するなら、実際に戦いで使うまで直ぐにしてほしい フラグ止まりや、影響の無い実験のみして、イベントや戦闘で使わないとか、使うイベントや戦闘まで数ヶ月以上ってこと大過ぎ
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