第百九章 篠ノ目学園高校 2.昼休み~幼馴染みたちの報告~(その2)
「匠がアタックしてるコボルトの村はどうなんだよ? あの近くにダンジョンっぽい場所とか無いのか?」
「あ~……まだ出会いは果たせてないんだよなぁ。けど、仮に出会えて情報を貰えたとしても、あの近くにダンジョンがあるとは思えないんだよなぁ」
宿場町を開放してコボルトのクエストを熟し、コボルトたちとの友誼を得て……となると、余りにもハードルが高過ぎるのではないか。ワールドアナウンスという形で告知した以上、特定のプレイヤーしかクリアーできないような場所にダンジョンを設置するとは思えない……というのが「マックス」の意見であった。恐らくコボルトたちからは、何かの情報が得られるだけなのであろう。
「その情報がダンジョンに関するもの……って思ってたんだけど……蒐の話を聞くと、〝ダンジョンではないおかしな場所〟に関するものって可能性もあるんだよなぁ……」
ともあれ現時点では、コボルトの少年と再会して話を聞く以外に手は無いだろう――という事で、匠たちはもう少し粘るつもりのようだ。それを聞いた蒐一は、
「じゃあ、要ちゃんたちの方はどうなのさ?」
――と、矛先を要の方に向けた。ちなみに、同じパーティである茜の方は、視線を弁当箱に落として黙々と食事を続けている。スポークスマンは要のお仕事です。
「私たちの方も収穫は無いわよ? 今はナンの町へ向かう途中で、野営状態でログアウトしたから」
「あれ? 要ちゃんたちって、イーファンにいたんじゃなかった?」
「正確に言えば、イーファンの郊外にある先輩のお家ね。イーファンから出ている乗合馬車に乗らなかったのか――って訊きたいのよね? 蒐君は」
「うん、そう」
イーファンの宿場町からナンまでは、徒歩で行けば一回の野営が必要になる距離であるが、イーファンから出ている乗合馬車(通常便)を利用すれば、朝一で出れば夕方過ぎには到着する。要たちなら当然そちらを利用する筈――と思っていたのだが……
「ただでさえ第二陣でごった返しているのに、ダンジョンシステム解放のアナウンスが流れたのよ? そんなところへノコノコ出て行ったら、それこそ〝飛んで火に入る夏の虫〟じゃない。願い下げだわ」
――という、狡猾……いや、賢明な判断の下に、徒歩でナンを目指す事にしたらしい。まぁ、もしもイーファンの宿場町に顔を出していれば、「黙示録」がゴッタ沼で陥ったのと同じような目に遭ったであろう事は想像に難くない。戦術的に正しい判断と言うべきであろう。
「――という訳で、私たちの方も特に目新しい情報は無いのよ」
「どっちかと言えば、蒐の方にあるんじゃないのか?」
「う~ん……僕の方も情報と言えそうなものは無いよ。相談したい事はあるんだけど」
さぁ来たな――と、思わず内心で身構える幼馴染みたち。本人が意図しての事ではないとは言え、ここまで陸続とやらかしと発見を繰り返してきた「シュウイ」である。昨日だって何事も無しで一日を終えたとは思えない。絶対に何かやらかしている筈だ。
「……酷くない? その偏見」
確かに色々とやらかしている自覚は無いでもないが、それは偏に【スキルコレクター】という曲者スキルのせいであって、自分に問題がある訳ではない。責められるのはお門違いではないか。
そう言って剥れてみせる蒐一であったが、幼馴染みたちの反応はと言うと……
「あら、実績は何よりも雄弁でしょう?」
「今まで大活躍だったもんね、蒐君てば」
「で、昨日は何をやらかしたんだ? 蒐」
――斯くの如く、取り付く島も無いものであった。
悲壮感溢れる――註.蒐一視点――溜息を一つ、態とらしく吐いてみせた後で、蒐一は徐に本題に入る。相談したい事があるのは事実なのだ。




